久々の青空の下、都会とは思えぬ森の中を彷徨っていたのです、

辺りを覆いつくすカツラの葉の余りの美しさについ空の色が

変わっていたことに気づきませんでした。

急に夕闇が訪れたように森の中に鎖されていると、稲光が

三度その森の中まで差し込んでくると、雷鳴が森を震わせ

大風がカツラの森を振るわせた、

と、たちまちに雨が叩きつけるように落ちてくる、

慌てて飛び込んだのは今では珍しくなった洋館の玄関先でした。

「パラ パラ」

と雨にしては音が大きいと見ているとそれは雹だったのです。

森の木々はまるで倒れるかと想うほどにしなりながら

悲鳴を上げている。

あまりの激しさに玄関の扉に背をつけると、その扉が簡単に

開いてしまった。

恐る恐る中へ入ると、奥に向かって声を掛けた。

「ごめん下さい、どなたかおりませんか」

一時の雨宿りを頼むつもりでした、

何度声を掛けてもその声は空しく邸宅の奥へと

吸い込まれていくだけなのです。

「鍵も掛けずに物騒ですよ」

その時、大風が玄関の扉を押し込めたのだろう、

「バタン!」

という音を残して閉まってしまった、

「カチャ!」という音を聞いたのは

確かでした、慌てて扉を開けようとしたのですが、

鍵がかかってしまったのです。

呆然とその場に佇んでいると、

その屋敷の中は全ての部屋に灯りが灯されているのです。

「やっぱり家の方はおられるのですね」

まるで誰かに手を引かれるように、

気がつくと赤絨毯の敷かれた階段を登っていたのです、

その時、「パタン!」と音がしたのです、

どこの窓も閉まっているのだからあの大風の

せいではないだろう、

きっと人が居るに違いない、

「ゴメンクダサイ!」

もう一度声を掛けて耳を澄ますと、

微かな笑い声が聞こえてくる、

いったいいくつ部屋があるのだろう、

覗き込んだその部屋には女性がいたのだろうか、

鏡台の上には蓋を閉めないままの化粧品がおかれ、

微かに香水の香りが残っていた、

再び、笑い声が、それは忍び笑いというのだろうか、

姿が見えずに笑い声だけというのは不気味を通り過ぎて

恐怖が襲い掛かってくるのです。

もう玄関に戻ろうとしても、足が勝手に歩を進めてしまう、

「キャーッ!」

屋敷中に響き渡る叫び声に、背筋に戦慄が走った、

「もういい加減にしてくれ!」

その時、玄関の扉が開く音がした、

あわてて、階段を二段おきに飛び降りると玄関の扉を押した、

「ヨカッタ、出られる!」

何時の間にか雨はあがっていた、

慌てて外へ飛び出すと森の中へ続く小道を逃げるように

走り出していた、

広場は、あの洋館の中から見えていた庭だった、

そしてその先に、確かに二人の姿が・・・

それはまだあどけない少女でした、

「君たち、さっきまであの洋館にいなかったかい」

すると二人がこちらを振り向いた、

「アッ!」

どちらも顔が無いのです、

「ワーッ!」

どこをどう走ってきたのか息を切らして気がつくと

あの洋館の玄関先で雨宿りしていたのです。

庭の方から微かに

「ウフフ フフフ・・・」