岩村01

東美濃地方の高原地帯を走り出した

明智鉄道の車内はいたってのんびりとした空気が

まどろみを誘っておりました。

隣に座った気の良さそうなおばちゃんが

「古い町並みの城下町がありますよ」

と まるでこちらの好奇心をあおるような話を

してくれるのです。

「ここですよ」

と教えてくれた岩村駅で降りたのは暇な旅人ひとりでした。

岩村06

最初の角を曲がると山に向かって昔の町並みが延々と

続いている。

『我れ恩を人に施しては忘る可し 

 我れ恵みを人に受けては忘る可からず』

『無能の知は是れ瞑想にして

 無知の能は是れ妄動なり』

それぞれの家の玄関先にはひとことひとこと

ぐさりと胸に刺さるような名文句が木の札に

書かれて下げられている。

不思議に思い尋ねてみると、すべて佐藤一斎の言葉だという。

岩村03

時の宰相小泉首相が

『少くして学べば則ち壮にして為すこと有り

 壮にして学べば則ち老いて衰えず

 老いて学べば則ち死して朽ちず』

  (佐藤一斎 言志後録第六十条より)

と例えにあげ一躍名を知ることになったあの佐藤一斎が

老臣に加えられた岩村藩の城下町だったのですね。

本町通りを歩くと、

東から、水野薬局、木村邸、土佐屋、浅見家、勝川家などが

昔の面影を色濃く漂わせている。

岩村05

「もういいかい」

「まーだだよ」

懐かしい声が昔町に響いていた。

学校から帰ってきた子供たちがかくれんぼ、

日本中、何処を旅してももう見かけなくなってしまった

子供たちの遊ぶ姿に私はしばらくその場に佇んでおりました。

城下町,宿場町,門前町など全国各地に残る歴史的な

集落・町並みの保存が図られるようになりましたが、

制度が出来れば保存が保証されたわけではないのです。

岩村04

その町に住む人々の残そうとする確かな意思がなければ、

町は残ることはできないでしょう。

家並みを残すだけでなく、

そこに生きる人の優しさや温かさも一緒に残していく岩村の町は

確かにその残そうという意思をはっきりと表しているのですね、

岩村07

岩村は元気な子供たちが表で遊ぶことが

当たり前の町として

残っている稀有な例かもしれませんよ。

あまりの居心地の良さにすっかりくつろいでしまった

旅の途中でございます。

岐阜県恵那市岩村町にて

岩村02