浅草雨01

仕事を終えて表を覗くともう辺りは夕暮れ、

おまけに冷たい雨ですよ、

「さあ、これからぶらりとするか」

という楽しみの出鼻をくじかれちまいましたよ、

そりゃ雨だって歩くと決めたことですから、

歩きますがね

どうせなら、スカッと晴れた青空の下を歩きたい

じゃないですかね。

浅草雨02

柳小路のいつもの場所で見上げると、

「さすが世界一の塔だね」

仲見世と最新技術のタワーの取り合わせは、今

を生きてる実感を与えてくれる浅草じゃ貴重な

景観なんですよ、

「随分、分厚い雨雲じゃないのさ、

これじゃ当分止みやしないよ」

ブツブツと呟きながら観音様へご挨拶、

あんまり大きい声で文句言うと、あの雷様のヘソが

横向いちまいますからね、

「クワバラ クワバラ!」

浅草雨03

それにしてもさぶいね、

身体が半分くらいにチジコマッタ気分ですよ。

雨降りは、傘も必要、下駄に爪掛け、雨合羽も必要、

余計なことばかりが増えちまって、散歩の楽しみも

半分くらいに減っちまいますよ、

喜ぶのは相合傘のお二人さんくらいですよ、

「たく!」

冷たい雨の中歩いてると、ついセカセカした気分に

なっちまうんですよ、

浅草雨04

ひょいと覗くと不機嫌そうな猫ドモと目があっちまいましてね、

「なんだい、不景気なツラして、

 そんな目してると客は帰っちまうぜ」

「そんなこといったって、この雨じゃ客なんて

 来やしませんよ、店の主人は客を招いてこいって、

 ずーっと片手を挙げたままなんですよ、疲れちまって

 いい加減休みたいのに、主人が後ろからハエタタキで

 尻たたくんだもの」

「それで、そんな不機嫌な顔してるのか、

 それもお前達の仕事だから せいぜい頑張るんだな」

浅草雨05

「あれ、寄ってかないの」

「ダメ、ダメ、ほら奥でクダ巻いてるヤツがいるだろ、

 雨降ると必ずあの席に居座るんだから、かかわりにならないのが

 最良の方法だよ 君子危うきに近寄らず ってな」

源さんの後ろ姿の侘しさよ

なんて呟きながらアタシはいつもの蕎麦屋へまいりますよ。

浅草雨06