秩父夜祭の宵宮は、あの12月3日の神幸祭の喧騒の屋台曳き

とは全く表と裏ほどに異なる様相なのです。

神幸祭が始まると、屋台の傍に近づくことさえ出来なるほどの

人波にただ押し流されていくだけでしたが、

しかし、宵宮はいいですね、町中が祭りの前の静かさに

じっと息を凝らしている気配がするのです。

(秩父神社)

それでも、何気なく訪ねる秩父の平日の夕暮れは人通りの

絶えてしまった番場通りなどはわびしさばかりを感じて

しまうのですが、

宵宮は、提灯に灯りが点され、どの店も神を迎える喜びが

漂い始めているのです、

昔が蘇ったように飾り付けが施されている番場通りを

祭りの雰囲気を感じながら秩父神社へ参拝にまいりますか。

(本町屋台の曳き廻しが始まりました)

すでに神幸祭に担がれる神輿は飾りつけを終えて鎮座しております、

参拝に訪れた人々の長い列の後ろに並び、その順番を待つ間に

祭り気分がひしひしと感じ始めますよ。

拝殿ではどうやら蚕の奉納が行われているようで、江戸から明治へと

此処秩父の絹が遠くヨーロッパへと送られたことの事実を垣間見る

想いがいたしまます。

左甚五郎作の龍の彫り物を見上げ、意外と小さな梟の姿を見つけて

なにやらいいことがありそうな気分で境内を後に町中へ。

(中町通りで上町屋台と遭遇)

覗き込んだウインドウの向こうからこちらを見つめているのは

かつての大宮郷(秩父)の豊かな町を作り上げた人々でしょうか、

大宮の繁栄と誇りに満ちた顔が微笑んでいる、

ああ、祭りとは ハレの日なのだと目配せを送って

いるのかもしれない、

会所でお尋ねすると、

「今宵も屋台の曳き廻しと歌舞伎舞台がありますよ」

とその場所を教えていただく。

ちょうど休憩時間なのでしょう、

中町の屋台の前では

「どうぞ、近くで見ていってくださいな」

灯りのついた提灯に飾られた山車が夜空に浮かび上がっている、

目の前で見上げる山車の見事なことといったらありませんですよ、

この屋台の上で、屋台芝居や曳き踊りが演じられるとのこと、

屋台中からは休むことなく屋台囃子がなり続けています。

(中町屋台のギリ廻し)

関東でも山車の曳き廻しは、佐原、成田、川越、栃木、烏山、

潮来、鹿嶋、小見川、鹿沼、沼田・・・

もう数え切れないほど目にしてまいりましたが、秩父の屋台は

その何処にも引けをとらない素晴らしさでありますよ。

この辺りで早々といつもの蕎麦屋さんで腹越ごしらえを済ませ

再び本町会所前へ、

路地の奥から、屋台に乗り込む勢子役四人が両肩を支えられて

やってきますよ、どうやらしたたか呑まされたらしくすでに

気勢があがっておりますな。

合図の笛が鳴り響くと、屋台が動き出しました。

明日の祭り当日ではこんなに近くに寄りつくことなどできません、

カメラを持つ手を上にあげると、そのままの姿で押されていくだけで

手を下すことさえできないほどの人出なんですからね、そのことを

体験すると、宵宮のゆったりした祭り気分が天国のように感じられますよ。

どうやら心配していた雨も大丈夫なようです。

「ギギイー ギギイー!」

屋台の車軸からこんな音がしていたんですね、あの歓声と拍手で

聞き取れなかった音の発見も宵宮の持つ静かさのお蔭のようです。

中町通りで本町屋台と上町屋台のすれ違いに遭遇、何度も秩父に

通いながら初めて目にすることができた瞬間です。

すれ違う屋台と屋台の隙間はほんのわずか、若衆達の山車曳き廻し

の巧みが光ります、無事すれ違いを終えた瞬間、周りから拍手と歓声が

上がりますよ。

そしていよいよ屋台のギリ廻しが始まりました、

屋台囃子が打ち続けられる中、てこ棒が屋台の下に差し込まれると

若衆たちに緊張が走ります、てこ棒にとり付いた若衆たちは渾身の力を

込めてテコ棒に全体重をかけると、あの重たい屋台がギシギシと傾き

始めるのです。

その隙間へ木製ジャッキが据えられそのジャッキを中心にゆっくりと

屋台が方向を変えていきますよ。

方向が無事変わるともう一度てこ棒によって屋台が持ち上げられ

ジャッキがはずされ、屋台の車輪が地面に接地した瞬間、拍手が

湧き上がるのでした。

再び曳き綱に曳かれて屋台が遠ざかっていく後姿に敬意を表して

次の中町での屋台芝居へと参ります。