二の酉も無事終わり、

「さあ、そろそろ寒くなるぞ」

と身構えていたら、拍子抜けして春がまた来たかと思う

温かさなんていうのがここ最近の秋の暮でしたが今年は

朝から冷たい雨、珍しく歳時記通りの冬がすぐ隣にやって

きたようですよ。

別に期待して待ちわびていたわけじゃありませんが

年寄りには凍えるような寒さはやっぱり堪えますな、

おまけにアタシは冷気アレルギーときていますから、

急に冷たい風にあたるとくしゃみが止まらなくなるのですよ。

こういう日は何も考えずに頭を空っぽにして

雨の浅草散歩と洒落込みますかね。

「もともと空っぽじゃねーかよ」

あっ!またアイツだ、アタシの独り言を聞いてたんですよ、アイツは、

アイツって誰か ですって?

それが正体がわからないから始末に悪くてね、

浅草を歩いていると、時々 ちらっと現れては

「ボソッ!」

と呟いて、すーっと行っちまうんですよ。

いつも背中越に呟くから顔は見たことないのですが、

声だけはわかるんですよ。

つい今しがたも、その声が聞こえたので、

「いい加減に正体見せやがれ!」

とつい怒鳴ったんですよ、

「ヘッ、ヘッ、ヘッ、気になるかい」

ってぬかしやがる、

「姿が見えずに、音ばかりてぇのはお前は 屁 かい」

「うまいこと言うね、まあ、屁みたいなモノかもしれねぇな」

チキショウ、言うことがいちいち癪に障るじゃないかね、

いつもそうなんだ、コイツは揚げ足ばかりとりやがってね、

「ハクション!チキショウ・・・」

「相変わらず口が悪いね」

「なんだ、くしゃみまでいちゃもんつけやがって、くしゃみくらい

自由にさせろてんだ」

「ハッ ハッ ハクション! チクショウ 」

「くしゃみは出物腫れ物だから仕方がねーよ、後がいけねー

チキショウってのが余計なんだよ」

「そんなこと急に言われたって、親父がそうだったんだから遺伝だ!」

こちらも段々語気が荒くなるじゃないですかね、

まったく、姿見せないで、口先だけってぇのは腹が立ちますよ。

待てよ、今流行りの手のひらに乗っかる携帯電話ってぇーのも

あらや、屁 見たいなもんじゃないかね、

姿が無いのに口ばかり、おまけに相手の顔が見えないことをいいことに

ベラべラ、ベラベラ 言いたいことを言うばかり、

「お前は携帯電話かい・・・」

「なんだいそれは、そんなもの知らないね、お前さんの若い頃は

無かったじゃないか、もっとずーっと昔からお前さんのことを

知ってるんだからね」

ますます、気持ちが悪いたらありゃしない、

アイツに比べたら、同じ口が悪くてもあの酔っ払いの源さんの方が

ずっと気分がいいじゃないかね。

「ハクション!チキショウ・・・」

「ほら、また言ったぞ」

「いちいちうるさいヤツだね、いい加減に名前くらい名乗ってみろ」

「いいのかい」

「なんだ、気を持たせやがって、いいよ、言ってもらおうじゃないか」

「フッ フッ フッ オレはお前だよ」

「・・・・・・・・」

浅草も急に冷え込んでいよいよ冬を迎える

季節になりました。

「ハッ ハッ ハクション! チク・・・」

慌てて口を押さえた浅草散歩の途中のことでございます。