勝浦駅を降りると空はすっきりと晴れ渡りもう秋の気配が

漂い始めておりました。

「勝浦」は私の人生にとっても懐かしさを最も感じる町でも

あるのです。

もう半世紀以上も昔のことになりましたが、高校生だった夏の二ヶ月を

この勝浦で生活していたことがあるのです。

もうあの頃お世話になった中華ソバ屋のおばちゃんも、牡蠣の採り方を

教えてくれた老漁師のじいちゃんももう居なくなってしまいましたが、

この町を訪ねる度に懐かしい人たちの顔が浮かんでくるのです。

九月の半ばになると、海の男達の祭りが始まるのです。

毎年、四日間神輿を担ぐ男衆の荒い息吹が町を覆いつくすのです。

最終日の『神輿の船渡し』の熱気も『八幡様お宮お帰り』に

上本町・仲本町・下本町・出水区の屋台が夕方から街中を引き廻される

「屋台の曳き回し」も三年前に見せていただきました。

今年は初日の各地区の神輿渡御はどうだろうかと列車を乗り継いで

やってきたというわけですよ。

祭りの各地区は墨名区・串浜区・松部区・川津区・沢倉区・新官区の

六区に分かれており、その各地区の神輿と屋台が引き回されるという

のです。

昔ながらの『村回り』と称して、ほとんど見物人も無く、各地区の人々が

静かに祭りを楽しむのです。

どうやら初日の『村回り』は川津区、沢倉区、墨名区の三区だけのようです、

しかしこの三区を駅から歩いていくとなると、山を越えていくことになり

中々ハードな祭り旅になりそうですよ。

中津港の丘の上に鎮座する 中津神社は祭り提灯が飾られとても

いい雰囲気ですが、神輿は何処を渡御しているか見当がつかないのです、

中津港に打ち寄せる波の音を聞きながら、次なる沢倉区へ、

ちょうど休憩が終わりいよいよ神輿が動き始めましたよ。

沢倉区の神輿は八幡神社の神様がお乗りになっている、

海の男の 祭り甚句 があたりに響く、

若衆の担ぎ手はあの独特の右に左にとまるで海の上を漂うように

揺れながら路地を動き出す。

(ここからの写真は三年前の大漁祭りの模様です)

(『神輿の船渡し』)

若衆のひとりが神輿の後ろから押す仕草を見せると

「神輿を押しちゃならねい、神輿は自然のままに動いて

いくものだ」

見れば二本の担ぎ棒をそれぞれ背中合わせに担ぐのです、

右に行き過ぎると反対側が曳き始める、その阿吽の息の合わせ方が

実に美しいのです。

もしかしたら神輿に乗る神様の差配によるのかもしれません、

すっかり暮れてしまった道をとぼとぼと歩いて次は町場の墨名区へ、

ところが神輿の姿は何処にも見当たりません、

闇雲に探し回るとこちらの体力が消耗するばかり、

この間を使って、駅前のソバ屋さんで腹こしらえ、

祭りのアタシの食事は カツ丼に決めているんです、

「おばちゃん かつ丼ね」

運ばれてきたお盆の上には、

見事なカツ丼に味噌汁、おしんこに茗荷の酢漬け、おまけに

デザートのフルーツまでついて 金850円なり、

もう申し訳ないような美味しい食事をいただいていると、

(『八幡様お宮お帰り』)

(「屋台の曳き回し」)

表からお囃子が聞こえてくる、

慌てて食事を済ませると、墨名区の熊野神社の神輿が

やってきますよ、

店の前では店主の奥さんが盛んに声援を送っている、

「お囃子の笛を吹いているのが娘で、太鼓を息子が叩いているんだ」

まさにみんなで祝う神輿の「村廻り」そのものですよ。

こんなに、和やかで和気藹々とした祭りもいいものですね、

「あんた、明日も来るのかい、明日はもっと沢山の神輿が

出て来るんだよ」

私は三年前のあの大漁まつりを思い出しながら、にぎやかな祭り

もいいけれど、

こんなに和気藹々としたゆったりとした祭りはもっといいなと

感じていた祭り旅の途中です。

(平成27年10月)

秋の夕暮れ上総勝浦の祭りを思い出しながら