旅の途中

思い出の渚

逗子01

海の見渡せるテラスに座っているのは年老いた旅人一人、

梅雨明け宣言などなくてももう十分の夏が横たわっている

薄曇の汀(みぎわ)を目を細めて見つめていた。

あの砂浜には、自らが振りまいた青春の欠片が散らばって

いることを思い出している。

逗子06

パラソルなどという洒落たものなど無かったが、

砂浜に寝そべり

背中を焼き、

身体が熱を帯びてくると海に飛び込み、

今度は仰向けのまま目を閉じる。

裏表こんがり焼けた身体は青春の勲章だと思っていたあの頃、

誰もがそれだけで十分楽しかったんだ。

逗子02

そうして三日も其処に横たわっていれば、裏表の区別はつかなくなる、

火傷のような身体を海につければどうなるか、

あの飛び上がるほどの痛みは今も身体が覚えているのさ。

笑った時の歯の白さだけが若さの象徴、

薬臭い妙な飲み物を知ったのもあの頃、

日陰の無い浜辺に置かれたコカコーラとか云う生ぬるい飲み物を

口にして咽かえる、

それが流行の先端であれば、さも旨そうに飲み干さなければ青春が

許しはしなかったのさ。

逗子03

金は無いが時間だけは自由になる若者が夏の一日を過ごすには

海ほどありがたい所はなかったな、

あれから半世紀が過ぎた、

もうあの砂浜に寝そべることもないだろう、

それでも、こうして海を目の前にすれば、青春の一ページは

直ぐに思い出すことができるのさ、

逗子04

そこの若者よ

今だけだぞ、青春と呼べるのは

思い切り身体にその砂を染込ませてみたまえ、

50年経ってみればそれは宝石のように輝きを放ちながら

何時までも輝き続けるに違いないのだからね。

二杯目の珈琲を飲み干すとやおら席を立つ、

目の下を赤銅色の若者の操る舟が通り過ぎる

逗子05

青春の夏の海はあっという間に通り過ぎていくよ

誰の為にも待っちゃくれないからね。

思い出にひたるのなら、ずーっと後でいいよ

仕事も、家族も、一段落したら後は毎日が思い出と

戯れる日々になるのだから何の心配もいらないからね、

過ぎ去った思い出はね、後になると何倍にもなって

戻って来るものなのさ、

ほら、老人はこうしてとりとめもなく海をみているだけで

楽しいものなんだよ。

経験者の話は聴いておくものだよ、

親の小言と同じで、後になるほど利いてくるのだからさ・・・

逗子07

Categories: 日々

「残暑お見舞い申し上げます」 » « 影の無い男

2 Comments

  1. 散人様
    フウー 思い出すなあ。

    • 旅人 散人

      2017年8月7日 — 2:43 PM

      社長へ
      楽しかった思い出が沢山あるから、なんとか
      残り少なくなったあの世への時間を過ごせそうですよ。
      お互い、元気でいようね。

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