『春が来た  春が来た  どこに来た
 
   山に来た  里に来た  野にも来た』
   
              作詞:高野辰之

子供の頃から何の疑いも無く唄っていた曲です、

春は 山に来て、里に来てやがて野にも降りて

くるんですよ、

うん?

山から下りてきた春は里に来て野に来るのは

判りますが

そのあと何処へ来るんだろう、

ぐるりを海に囲まれた日本ですから当然海にも

来るはずですよ、

この国では、昔から神様も異邦人も、宗教も

みんな海の彼方からやって来ると信じていたのに、

春は海からやって来ないのだろうか、

こういうことを考えているのが暇人という者でしてね、

立春を無事迎えたのですから春が海からやって来ても

何の不思議もありませんですよね、

そうと決まるとじっとして居られないのが旅を棲家と

願っているおじさんの行動ですよ。

やって参りました鎌倉は由比ガ浜、

静かですね、

風は穏やか、波静か、

気分はすっかり春のつもり

砂浜に足を踏み入れ辺りを見回わすと

春を感じにきた人がちらほら、

沖から戻ってくるのは若者二人、

「どうだい海も温くなったかね」

浜に戻ってきた若者は、唇を震わせ

「寒いスヨ」

春は名のみの海の寒さよですな、

どうやら春は海からはやってこないようですよ、

それでは、冬の景色を楽しむことにいたしますか

と切り替えの早いのも旅人の大事な要素ですよ。

刻々と移り行く空の彩り

やがて海を茜色に染めきって、今日の陽が沈む。

海はまだまだ遠き春ですよ、