町内の集会所から三社囃子が聞こえてくると、
もう誰も仕事なんかしちゃいられないのですよ。
まだアタシが学校出たてで、それも某大企業に
入社しちまったために、
やれ研修だ、やれ言葉使いだ、挨拶の仕方だと
散々洗脳されて、営業に出されたのが
よりによって浅草だったんですよ。
よりによって三社祭の最中、カバンにカタログ入れて、
一軒一軒訪ね歩くというまったく効率の悪いやり方でね、
「バカヤロウ!今をなんだと思ってやがるのだ、
祭りに仕事の話なんかするんじゃねぇ」
飛び込んだ店のオヤジにいきなり怒鳴られましてね、
あの時のオヤジさんの一言に、祭りとはなんたるかを
教えられたというわけで、
子供の頃から馴染んでいた浅草人の生き方を
初めて身に沁みて感じた時でしたね。
その大企業もなんだか人間がダンダン小さく固められて
いくような気がしだして、プイと止めちまったのですから、
浅草のオヤジの一言は恐ろしいものでしょ。
まあ、アタシの昔話なんて何の足しにもなりませんので、
それじゃいざ浅草へ、
三社祭の初日はいたって静かに始まるんですよ、
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