遠くからでも判る見事な桜に惹かれて其の寺をお訪ねした、

今にも降り出しそうな雲の下でその桜はくすんだ色で

風に揺られていた。

「ひとりで見上げる桜もいいものだな」

と呟いていると、

「残念だな、もう三日早く来ればそりゃ見事な桜を

 みられたのにな」

振り向くと、庭の手入れを終えた棟梁が笑顔で声を

掛けてくれたのだった。

「これはこれで素晴らしい桜ですよ」

「いやいや、三日前の姿はぞくぞくするくらいだったな」

まるで絶世の美女に出合った時の若者みたいな顔で

そう教えてくれた。

その桜を見上げながら、桜の話に華が咲いた、

「三春はそろそろかな」

初めて三春の瀧桜を訪ねた時は、もう散り終わったところで

残念だった とその体験談を話してくれた、その時のことをきっと

思い出したのだろう、三日遅れでやってきた桜好きの旅人に

話しかけてくれたのかもしれない。

若々しい棟梁にぶしつけだが歳を尋ねると、私より三歳年上とのこと、

「元気なんですね」

「身体を丈夫に生んでくれた親に感謝してるよ、

おかげでさ年金には手をつけずに生きていられるんだ、

 元気ってのはありがたいよな」

其の時、二人で見上げていた桜が急に輝き出したのです、

雨雲の隙間から一条の光がこの桜を目掛けて差し込んで

きたのです、

「綺麗だな! 満開は過ぎても桜は綺麗だ・・・」

棟梁は目を細めながらまぶしそうに天を仰いだ。

それはほんの一瞬の出来事だった、

雨雲が其の光を閉ざしてしまうと、桜はまたもとの姿に

戻ってしまった。

なんだか桜も肩を落としたようだ、

「今のは二人の気持ちが通じたということですかね」

もしかしたら報恩というのはこういうことが起きること

をいうのでしょうかね、

なんだかしらないが、こころが豊かになった気がした

桜旅の途中のこと。

報恩寺にて