日本中の祭りを数えたら、万の数を超えてしまうでしょう、

現代人から観たらなぜ祭りを行うかは今や理解の外になって

いるのかもしれませんが、祭りには理屈を持ち込まない

というのが大方の日本人なのかもしれませんね、

ただし、その町の祭りには、町の大勢の人々が係わってくるので

自然に決まりごとが生まれてくるのです。

その決まりごとの違いこそが彼方此方の祭りを訪ね歩く理由なのかも

しれません。

日本の祭りの中で行われる、神輿渡御、神幸祭、還幸祭、御仮屋、

御旅所の設置、山車巡行、神楽、祭囃子、巡行行列など、ほとんどの

祭礼行事は京都の祇園祭に端を発しているのですね、

祇園祭の発祥といっても千年以上前ですので、その様式が日本中に伝え

られていくに従ってその地方の風土、伝承、と絡み合って独特の様式を持ち

始めるのですね、

祭りには、その祭りを開く祭主が必ずいるのでして、その祭主が朝廷であったり、

時の政府であったり、領主であったり、町の長であったりとその祭主の違いに

よって祭りの在り様も異なってくるのですね。

さて秋祭りの行われる十月、あっちでもこっちでも祭りが開催されるのです、

佐倉麻賀多神社、鹿沼今宮神社、佐原諏訪神社の祭礼を順繰りに訪ね歩こうと

というわけですよ。いえ、別に誰かに命令されたわけではありませんよ、

ただ一人の祭り好きの旅人が、歳を重ねてくると、

「来年は観られなくなるかもしれない・・・」

という不安感に襲われるのです。

身体が動くうちにやれるかどうか試してみる価値があるはず と決めたら

もう迷ってる暇はありません、東京から京成電車に飛び乗って

やってまいりました、城下町佐倉でございます。

最近は毎年のようにお訪ねしておりますので、祭りの進行状況はあらかた

頭に入っているので、無駄にウロウロすることはなくなります、

麻賀多神社の祭事が始まるまでの時間を無駄にしないように、前回お邪魔した

蕎麦屋さんで早々と腹ごしらえ、蕎麦をすすっていると、店の前を

お神酒所(山車)に守られた町内神輿がやってきます。

玄関を開いて、店主がご祝儀を渡す、しばらくお囃子が鳴り響くのです、

なんだか、自分の家に神様がやってこられた気分でございます。

さてと、麻賀多神社へ参拝、祭り当日というのは、案外神社そのものは

静かなものなんです、宮神輿は多分、鏑木町内へ運ばれているのです。

こちらの宮神輿は幅五尺を越すという大神輿、その担ぎ手は昔から

鏑木町青年会にまかされているのです、担ぎ棒は二本だけ、サラシを巻かれた

担ぎ棒に若衆が取り付き、これから神社へやってくる時間です。

やってきました白丁姿の若衆に担がれた大神輿、

 『明神まつりさらば久しい』

の掛け声を揃えて無事神社に到着、

神主様の御祓いを受けて、しばらくの休憩にはいります、

食事を済ませて、いよいよ各町内を練り歩き新町に据えられたお旅所までの

神輿渡御が始まるのですが、なにしろ他所の若衆の力を借りられない鏑木町

青年会だけの役割が続くのですから、休憩も大切なことなんですね。

さて一足先に新町通りへ参ります、

すごい人出です、お神酒所の山車がすでに動き始めています、

軽やかな佐倉囃子が彼方此方から鳴り響いています。

いつの間にか、江戸時代へ潜り込んでしまったようです、

町内の会所には、人の姿に代わった神様が闇の中からこちらを見つめています、

祭礼で祀られるのは荒ぶる神、それは恐るべき力を振るう神なのです。

その荒ぶる神の機嫌を損なえば天変地異が巻き起こるのです。

人間と云うのは数々の天変地異を経験するたびに知恵を付けていくのです、

荒ぶる神に喜んでいただいて、逆に産土の力を発揮していただき繁栄の力を

いただけるために、お囃子を奏で、神楽を舞い、神様のご機嫌をとるために

祭りを続けているのです。

栄町内のお神酒所が新町通りをやってきます、

木頭の木の根が鳴り響くと、若い娘さん達の手踊りが始まりました。

神様もさぞ目を細めて楽しまれているでしょう、見物人のアタシ等は

その神様への奉納舞いを一緒に見せていただくのですから、

神様と同じじゃないですか、アリガタヤ、アリガタヤ、

さすがに城下町のお祭りは落ち着きがあって、むやみに弾けるような

秩序を乱す気風はありませんですよ、

港町には海の男の荒々しさがあり、商人の栄えた町には粋な所作があり、

城下町の祭りには秩序が守られていたりと、祭りと名が付いたからと

いって、同じ祭りは全く無いのです。

似て非なるもの それが祭りというもの、

そのために、各地の祭りをこの目でこの耳で確かめたくなってしまう

のでしょうね。

これから佳境に入る、祭り会場をひとり背を向けて駅に向かいます。

見上げた夜空に 二十七夜の細い三日月。

まもなく暗闇の新月ですね。

明日からは少し遠くへ旅をしようかな。

(平成27年10月)