旅をしていると時々とんでもない話にぶつかることが

ありましてね、

大抵は 

「むかしむかしあるところに・・・」

で始まる昔話なのですが、そのスケールの大きいことと言ったら

びっくりする話なのでしてね

多分、みなさんも一度や二度はお聞きになったことと思いますがね、

むかし、房総の山の中で出会った老人がこんな話を聞かせてくれたんです、

「あんた、デイダラボウのこと知ってるかね」

「ダイダラボッチなら聞いたことがありますが・・・」

「ほら、ここから富士山が見えるだろ、そのデイダラボウという大男はな

 あの富士山に腰掛けて目の前の海(東京湾ですよ)で毎朝顔を洗っていた

 というんだよ、その男が歩いた足跡が今じゃ大きな湖になってるてぇ話だ」

そりゃアタシ達の時代だって、ゴジラだとか鉄人28号みたいな大きなヤツは

ありましたが、こんなドデカイ男なんて聞いたことはありませんよ、

それからは旅の途中で、この大男の話を聞いて歩いたんですよ、

そうしたら、あるわあるわ、

群馬では赤城山に腰掛けて、利根川で足を洗った とか

富士山と筑波山を天秤に載せて動かそうとしたら筑波山がひっくり返って

頭が二つに割れた なんていう話が残されているんですよ。

それにしても昔の人の想像力はものすごいじゃないですか、

現代人のように、何でも科学的に分析してなんていう理屈ばかりの

人間にはとても想像の及ばない話じゃないですかね。

久し振りにカラッと晴れ上がった寒中の夕暮れ

そのデイダラボウの肩に乗せてもらってすっくと立ち上がってみたんです、

「なんだあの細かい建物は、マッチ箱か」

デイダラボウがマッチを知っていたかどうかなんてことは

このさい無視してくださいよ、あくまでも想像の世界ですからね、

「ぶんぶん空を飛んでるのはハエか・・・」

「あれは、ヘリコプターっていう人間の乗りものですよ」

「あそこに見えるのは富士山ですよ」

「あれはオレの腰掛だ、ところでその細いのは何だ」

「それは最近出来たばかりの電波塔ですよ」

「オレの楊枝にちょうどいいじゃないか」

「ダメダメ、折角人間が何年も掛けて作り上げたんですから
摘んだりしないでくださいよ」

「ちょっと散歩したくなったな」

「ダメダメ、あんたが歩くと沢山の人間が踏みつけられて

大騒動になるからね」

「それじゃ、オレはどうすればいいのさ」

「やっぱり静かに富士山に腰掛けて、この国を見下ろしてくれていたら

それだけでみんな安心できるから・・・」

「退屈したらどうするのかな」

「イビキくらいは雷と想うだろうから居眠りしてくれたら一番嬉しいね」

「なんだ、それじゃいつもと同じだ」

「いつもどおりていうのが一番幸せってことなんだよ」

「鼻がむずむずしてきた」

「あっ、ダメだ、くしゃみはダメだ!」

「お前さんは無理ばかりいう」

「あんたがくしゃみしたら、

  ほら足の下の家やビルが壊れてしまうんだよ」

「まったくややっこしい国になったな、

  昔は平気でくしゃみできたのにな」

隣でカメラを構えていた老人が

「出ましたよ夕焼けが・・・」

並んで待っていたカメラマンが一斉にシャッターを押した、

「デイダラボウが目を覚まさなければいいがな・・・」