気がつけばまた海を眺めている。

新たな年のたった数日の月日も毎日空を眺めていると

夕暮れが目に見えて遅くなっていることに気づくのです。

それにしても寒い、そうか寒の入りでしたね、

海からの風に恐怖さえ感じてしまう。

南房総が温暖の地だからといってこれは

異常の部類にはいるのではないかと、

海から戻ってきた若い船頭に尋ねた。

「ここらではいつもこんなに冷たいのかい」

「こんな日はそう滅多にはないさ、其の内突然

 温かい風が吹き付けてくるさ、 そんなに自然は

 いつまでも意地悪じゃないからな」

だから今のうち冬を楽しむのだと笑った。

海鳥はまるで挑戦者のように漂っている、

全ての時間がこのまま止まってしまったら

どんなに楽だろう と海に背を向けている。

西の空に今日の光が沈むと、空が薄っすらと紅色に染まった、

やがて其の色もまるで冷たい海風が吹き消すように消えてしまった。

黄昏時は身体の奥に仕舞ってあったはずの感情が

ちらりと顔を出す。

まるで厳しさを忘れさせるかのように

岸壁に寄せる波が小さな音を立てて消えた。

久しぶりの冬の海はしばらくは味わえないだろう

と思うと立ち去りがたい気分でそれからもしばらく

海風に吹かれていた。

海の彼方に夜の明かりが瞬き始めていた、

あれは横須賀の明かりだろうか・・・

気がつくと何時ものオヤジさんが店仕舞いを始めていた。

「今年も来たのか?」

「ああ、あまり旨かったからね」

三度目の店主との会話は十分馴染みとしての

受け答えになっていた。

「この小さいのは初めてだけど・・・」

「それはサンマの丸干しだよ」

「この一列貰っていくわ、それからイカも」

「5枚持ってくかい」

「二人しかいないから2枚でいいよ」

「鯖が脂がのって今が一番旨いけどな」

「鯖は苦手なんだ、真アジにするわ」

と何時ものとおり土産を確保すると

さてとひとっ風呂浴びてきますかね。

今宵も当てのない旅はお気に入りの港で夜を

迎えるのでありました。