小鹿野上飯田の八幡神社奉納歌舞伎も二度目ともなると

舞台作りから舞台幕開きまで勝手が判っておりますので

前回気づかなかったところまでじっくり味わうことに

いたしますかね。

祭り二日間の最後の舞台は、どうやら上飯田子供歌舞伎の

面々による『寿 曽我対面工藤館之場』、

地元三田川中学がいよいよ廃校になってしまうとのこと、

生徒さんたちは今年が三田川中学生として歌舞伎を演じる

最後になってしまという話を聞き、なんだか切なくて胸塞がる

想いになってしまいました。

お会所に伺い、生徒さん達を激励したくて奉納金を納めさせて

いただきました。

黒々とした墨で書かれた例の大振りの半紙が舞台に貼り付けられた

時は、ちょっと恥ずかしかったですね。

再び振り出した霧雨に濡れているうちにすっかり身体が冷え切って

しまいましたが、そこは場なれた地元老人が猫車に古材を積んで

盛大なたき火を起こしてくれましてね。

歌舞伎が始まるまでの時間を、みなさんと一緒にたき火を囲んで

昔話を聞かせていただいている時間のなんと楽しいのでしょうか。

雨空に花火が上がると、木の音が響き渡り幕が上がりました。

『寿 曽我対面工藤館之場』の始まり・始まり!

  演技者 上飯田子供歌舞伎

 工藤左衛門    中学三年

 曽我十郎      小学五年

 曽我五郎      小学六年

 朝比奈        中学二年

 近江         小学五年

 八幡         中学一年

 虎御前        中学一年

少将         中学一年

(あらすじ)

工藤左衛門祐経は源頼朝のお気に入りの武将、

富士の裾野での巻狩りの総奉行を命ぜられ、そのお祝いに

武将たちが正装で工藤館に集まってきます。

その華やかさをおおいに盛り上げているのは

大磯の廓から招かれた虎御前と少将の二人の傾城でした。

(花道に登場する 朝比奈)

一同の祝いの詞を受けた工藤祐経が高座に着くと

花道に朝比奈が登場、その出で立ちはまさに歌舞伎役者

そのものでありますな。

朝比奈はかねてからお頼み申し上げておいた二人の若者に

逢ってやって欲しいと頼むのです。

(虎御前と少将の傾城をはべらす工藤祐経)

再び花道に二人の若武者が登場、

その若者たちは、十八年前に工藤祐経によって討たれた

河津三郎の実子 曽我十郎祐成と曽我五郎時致の兄弟

でした。

二人の兄弟は工藤祐経を父の仇と狙っていたのです。

(曽我五郎と曽我十郎)

仇を目の前にして血気にはやる弟十郎を抑える兄五郎の

場面はなかなか見ごたえがありますな。

兄弟二人は、工藤祐経から父を討ったいきさつを聞くのです。

朝比奈はこの機会に工藤祐経から盃を貰うように取り計らうのです。

兄五郎は、盃を受けるという大人の態度をみせるのですが、

弟十郎は無念のあまり盃を投げ捨てるのでありました。

兄弟でもその態度の表し方でそれぞれの性格の違いを

演じ分けるあたり、とても子供歌舞伎とは思えぬ達者振り

でありますよ。

(父の敵を目の前にして無念の十郎)

その光景を見ていた工藤祐経は、

鎌倉殿(頼朝)の第一の武将なる自分を討つことは叶わぬと

言い聞かせるのです。

そして、工藤祐経は二人に「時節を待て」と言い聞かせながら

狩場の通行手形を与えるのでした。

その意味は、富士の巻狩りの時に打たれてやろう という

工藤祐経の本心を知った曽我兄弟は再会を約してその場を

立ち去るところで幕が下りるのでありました。

鎌倉武士の生きざまをそれぞれの立場の中に散りばめた

演出は、日本人の節度ある生き方の基本を示すという

なかなか深いいみのある歌舞伎でありますな。

その心の中の葛藤を演じた小学性、中学生役者に

心からの拍手を送るのでありました。

子供たちの熱演を大人たちがしっかりと守っている小鹿野という

町の生き方にまたまた感動させられました。

いい街ですね 小鹿野は・・・

あれ、夜の九時を回っておりますよ、

さて今日中に我が家に帰れるでしょうか、

のんびりと帰る祭り旅の途中のことでございました。

平成27年12月13日 小鹿野上飯田にて