昔から師走も半ばを過ぎると、江戸の町にも彼方此方に

歳の市が立つんでありますよ。

庶民にとっては正月は歳神様を迎える大事な祭りでして、

正月がくるとみんなひとつ歳をとるのは、歳神様から

「歳の御魂」をひとついただくからで、子供達が首を長くして

待ちわびる「お年玉」は元を正せば「歳の御魂」なんですよ。

さて、その一年で一番大切な歳神様のためにいろいろ用意

しなければならないのですが、その数々の品物を揃えるのが 

歳の市というわけですよ。

師走の14、15日の深川八幡宮に始まり、

18日の浅草納め観音、神田明神に

芝の愛宕神社、湯島の天神様を巡って

最後は28日の薬研堀不動尊でいよいよ大晦日を

迎えるわけで、それぞれの市には神仏具、臼杵、

笊に箒なんていう日用品から、注連飾り、門松、

さらに縁起物のダルマや羽子板や熊手など、所狭しと

並べられる中を、襟巻きに外套で巡る楽しみは

何も代えられぬものがありましたよ。

さてと、師走十八日は浅草の観音様のご縁日、

納めの観音でありますが、勿論、歳の市でございますよ、

縁起物の羽子板を商う店が並ぶと、いよいよ暮れの風物詩、

浅草の羽子板は、江戸の終わりに人気になった歌舞伎役者を

押絵にしたところ大当たりとなったもので、今でも役者絵が

所狭しと並ぶんでありますよ。

アタシも今まで「暫」や、「娘道成寺」、「義経千本桜」

なんていうのを手に入れて今でも正月には玄関に飾って

おりますよ。

今年は、秩父の歌舞伎を観て来たばかり、さて何を奮発しようかと

思っておりましたが、

此処へ来る前に秋葉原にふらりと寄り道したところ、

新しいカメラを手にしちまったんですよ、

その怪しい輝きに心が負けましてね、

ついそちらを所望してしまいました、

仕方なく、本日は馴染みのオヤジさんと目を合わさぬように

陰から、

「この連獅子は買いだよ!」

なんてよそ様を焚き付ける役に徹しておりました。

恒例の今年活躍した人がモデルの羽子板は・・・

当然、この二人でしょうね、

陰陽師になり切ったフィギアスケートの羽生結弦君、

そしてあのポーズが新鮮なラクビーの五郎丸歩君で

決まりですな、

世相が羽子板に現れるのもまた年の瀬の風物詩で

ありますよ

そっと取り出したのは、先ほど手に入れたばかりの

新しいカメラ、こいつも中々の実力、

掌に隠れるほどの小さな型の割りに良く写りますよ、

パチリ!、

実は無音でして、スナップには抜群の軽快なショットに

ニコニコしてたら店のオヤジさんに見つかっちまいまして

「あれ、今年はどれにするのさ」

「あのさ、羽子板代がこれ(カメラ)に代わっちまってね、

今年はご勘弁を・・・」

羽子板は家に売るほどあるから、せめて追い羽根をいただいて

今年の納めの観音様にご挨拶して帰るといたしますかね。

あの源さんに見つからなくてヨ・カ・ッ・タ。

どうせどこかの店に引っかかってることでしょうからね。

(2015年 浅草観音 歳の市 にて)