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「育徳園心字池」と聞いてもそれはどこにあるのか

ほとんどの方はご存知ありませんでしょ、

加賀藩前田家の江戸屋敷、そうです現在の東京大学の

キャンパス内にある池、今は三四郎池と呼ぶほうが

どなたもお判りいただけるでしょう、

夏目漱石、森鴎外の小説を読むとこの辺りの描写が

克明にでてくるのですよ、

「育徳園心字池」と呼ばれていた頃の景色は見たことは

ありませんが、それはそれは豊な自然を取り入れた見事な

庭園であったとか、

しかし、安政の大地震や明治の大火事で見るも無残な姿に

変わり果ててしまったのです。

漱石先生も、鴎外先生もこの東大のすぐ近くに住まわれて

いたので、東大構内は日頃の散歩コースだったのでして、

その散歩で歩いた道を小説の中に生き生きと表現したのですから、

転んでもただは起きないということだったのですね、

転んだら転びっぱなしのフーテンおじさんは、百年前の

散歩道を歩いてみようとやってきたのであります。

(「育徳園心字池」)

手にしているのは 森鴎外著 「雁」、

三四郎池の辺の石段に腰を下ろしてその「雁」を読みふける、

そこはまさに百年前の上野界隈である、

上野広小路の仲通り蕎麦屋の蓮玉庵や十三屋と云う櫛屋が

顔を出したり、

不忍池の描写や秋葉の原から鳥越あたりまで懐かしい地名が

飛び出してくる。

下宿屋の小使いから身を起こした末造は高利貸しで

身上を得ると檀那気分でお玉を無縁坂の途中に借りた

小家に囲う、物語の筋はようようお読みいただく

として、その中に散りばめられた珠玉の言葉の

なんという輝きでしょうか、時の過ぎるのも忘れて

しまうほどでありますよ。

母衣を掛けた人力車が目の前を通る、

円朝や駒之助の義太夫が聞こえてくる、

銀杏返しや桃割の女、箱火鉢に烟管煙草、

ブリキの鑵から出した煎餅の匂い、

格子戸を出て行く駒下駄の音、

二枚折の葭簀屏に肱掛窓を抜けてくる心地よい風

まで感じられる。

(無縁坂)

本を読み終わると三四郎池を後にした、

鉄門を抜けると目の前は下宿屋 上条 のあった辺り、今は

葬儀社のビルになっている。

白木綿の兵古帯に小倉袴を穿いた医学部の学生岡田がいつもの

散歩に出かけたのはこの道に違いない、

道はやがて下り坂になる、あの無縁坂である、

視線はどうしても左端に注がれてしまう、

もしかしたら、お玉の姿があるやもしれぬ、

しかし、岩崎邸に沿った無縁坂では携帯片手の若者が

声高にしゃべりながら通り過ぎていく、

肱掛窓の仕舞屋などあるはずもなく、マンションの

硬く閉ざした窓が並ぶ、

ふと正面に、またあの世界一の塔の姿、

鴎外先生なら、この景色をどう表現しただろうか、

坂を降り切るとそこは何時もの散歩道、

すっかり色づいた木立の向こうで 白鷺 がのどかな姿を見せている、

まさかあの岡田のように 石を投げるわけにもいかぬ、

物語は三人の学生の鍋を囲むシーンで終わるのですが、

やはり、その後の、お玉のことが気になるのですよ、

鴎外先生も百年も後の読者にまで憶測をさせるのですから

お人が悪い方ですよ、

とうとう降り出しましたね、

不忍池の辺りでぼーっと佇む東京時雨散歩でございます。