作夜の地震に半分忘れかけていたあの日を改めて

思い出しましたね、

身を引き締めて表に出ると顔が痺れるような冷たさ、

それでも風が収まり空が美しいのですよ。

「真冬の散歩はつらいな」

なんて半分諦めていたのに、お天気の神様は

「ほら、歩いてごらん」

と言ってるみたいですよ。

さてと、こういう切なさが漂う夕暮れは何処にするか・・・

思案の楽しさが選び出したのはビルの狭間で今も昔の生き方を

守っている町、

いつも夏祭りにお邪魔する町 月島 

遠くから見つめるとビルだらけみたいでしょ、

そのビルの狭間に狭い小路が巡る町、それが月島なんですよ、

月島の名の由来は江戸湾に突き出ていた 月見の名所 月の岬から

名づけられたという由緒ある町なのです、

明治時代、東京湾を浚渫した土砂を埋め立てた歴史を知ると

なんだか急にしらけた気分になりますが、夕闇が町を包み出すと

この町が生き生きと活気を帯びてくるのですよ。

アタシ等がまだ学生の頃は、都電が唯一の交通手段、それでも悪友が

闊歩していた町は、世界の銀座の隣にありながら、下町の香りを

撒き散らす親しみの湧く町でもあったのですよ。

久し振りの仲通り商店街はずらりと並んだもんじゃ焼きの店が

多くの若者を集めておりますよ、

そういえば アタシ等がガキのころは「もんじゃ焼き」ってのは

駄菓子屋の隅っこでオバチャンが世話してくれた子供のおやつ

だったのですがね、

何時の間にか若い娘さんが大挙して訪れる食べ物になっていたんですよ。

このもんじゃ焼き、歴史を辿ると安土桃山時代の千利休に

辿り着くほどの由緒ある食べ物なんだとか、

今は、関西地方のお好み焼きにや広島焼きの亜流みたいに

思われておりますが、

堂々とした歴史的食べ物なんですよ。

月島は東京のもんじゃ焼き発祥の地というので今や

この狭い月島界隈に70軒ものもんじゃ焼き屋が

ひしめいているとか、

早い話が、今流行りのB級グルメの先駆けというわけですな。

それにしても冬至明けとはいえ、夜の来るのは早いもので、

まだ5時というのに辺りは暗闇、なにやら路地の奥から

怪しい雰囲気が忍び寄ってくるのですよ、

路地裏大好きの散歩のオジサンは嬉しそうな顔で

その路地裏を闊歩するのでございます。

「うーん、この臭いは郷愁を誘いますな」

気がついたら、一人でもんじゃ焼きを

焼いておりましたよ、

ちょっと切ない月島路地裏の散歩道でございます。