とうとう東京の桜が満開になっちまいました、

「何を慌ててるんだよ」

「咲いちまったんだよ」

「桜かい、そりゃ弥生三月と聞けばほっといたって桜は咲くさ」

「だからさ、咲いた桜は散るのが道理、風が吹く前に

見ておかないと爺には来年がないかもしれないじゃないかさ」

「そうやって、セカセカしたって散るものは散るだけなんだから

滑って転んじゃ身も蓋もなくなるぜ」

珍しく源さんに意見されて、だからといって桜狂いの足は

止まるもんですかね、

元々下戸の花見は、茣蓙敷いて片手に酒壜、片手にスルメ

なんていうのは縁がありませんでしょ、

ただひたすら桜の花の下をポカンと口を開けて歩く

だけなんですから、

それじゃちょいとご挨拶だけ済ませてまいりますから、

今宵は王子の桜でございます、

王子といえば坂東のお稲荷様の総元締めでございますよ、

まずは装束稲荷に手を合わせ、やおら歩き始めれば

どうです音無川の桜は満開でございますよ。

桜の下ではすでに出来上がってる若者が

意味不明の奇声をあげ、おじさん集団はひたすら酒を飲み続ける、

いよいよ夕暮れが近づいてくると酒のメートルが上がるのとは

反対に気温の方は急降下、

「寒いよ!」

と子供連れの若い母親が叫ぶ。

昼間の青空は何処へやら、ぐんぐん下がる気温に

みんなワナワナ唇震わせながらの花見でございますよ。

花曇りどころじゃありませんですよ、こりゃ真っ当な花冷えで

ございますな。

「ビールはいいから熱燗にしてくれよ!」

そんなこと言ったって桜の下は火気厳禁、

毛布に包まって、エスキモー人もびっくりの装束に身をまとった

用意周到の御仁も、盛り上がらないことったらありゃしない。

こりゃどこから見ても寒修行でありますな。

こちらは、音無橋の階段登って、次なる花見の場所へ颯爽と 

と言いたいところですが、ヨッコラ、ヨッコラやってまいりました

ご存知 飛鳥山の花見でございますよ、

何しろあの暴れん坊将軍吉宗公公認の庶民の花見の名所でございますよ、

二人だけの世界で目を見つめあいながらワイン片手のお花見なんていう

カップルから車座の大宴会まで、何時まで続くお花見ぞ・・・

散歩のおじさんは、一箇所にじっとしているわけではありませんでしょ、

歩く、歩く、歩く、とお陰で身体はポカポカしてくるし、安上がりな

お花見散歩でございますよ。

やっぱり、お花見はいいもんですな、

どこからどう見ても、平和そのものじゃないですかね、

ほら、桜眺めて怒ってるひとなんて誰もいませんよ、

「サクラが咲いたぞ、サクラが咲いたぞ!!」

若いグループが何度も何度も連呼する日本の花見でございます。

飛鳥山にて あの頃はコロナのコの字も無く

桜の下で盛り上がっておりましたのにね。