日本の祭りの中に、獅子舞という、獅子頭をかぶって踊るという

民俗芸能がありましてね、

特に関東から東北にかけては猪や鹿に擬した頭をかぶり、

胸に羯鼓をつけた一人立ちの獅子舞が古くから伝えられており、

特に神社の祭礼に氏子代表が奉納踊りとして舞われるものは

風流踊りなどと言われ、五穀豊穣、悪疫払い、雨乞い、を願って

今でも続けられているのです。

この獅子舞は北は北海道から南は沖縄まで全国に

流布しているのですが、

二つとして同じ形態が無いほどに変化に富んだ踊りは、

どんな祭りの中で出会っても興味尽きないのでありますよ。

特に関東各地の獅子舞は一人立ちの三人一組から

なるものが多く、

三匹獅子舞などと呼ばれることが多い。

さて、いよいよ秋も深まり五穀豊穣に感謝する最期の時期となった

10月28日、松戸大橋の胡録神社で三匹獅子舞が行われると聞いて

早速駆けつけたというわけです。

一度上がっていた雨が夕暮れから再び降り出し、中止になるのかと

心配しておりましたが、屋内に場を移して実施するとのことで

ひと安心です、

始まるまでの時間、思わぬ支度するところから世話役の方に

いろいろ教えていただき、ますます興味津々の獅子舞です。

登場するのは、先獅子、中獅子、後獅子の三人、

どうやら中獅子は雌獅子のようで衣装の色が赤なのです。

そして他所の獅子舞では猿田彦役が居たりするのですが、

ここ大橋では猿の面をつけた道化役が一人登場するのだとか、

囃子は、謡手一人に横笛四人、さらにささらが置かれています。

始まるまでの間、長老や世話役さんたちが、衣装の付け方、

面のかぶり方など、指示が伝えられると、舞い手の若衆たちに

緊張が走ります。

本来であれば境内に茣蓙を敷いて始まるのですが、生憎の雨で

室内の畳の上で

長老の

「それでは始めるか」

のひとことで三匹の獅子が登場、

今宵の舞いは「宿入り」と呼ばれ、宿になる家の馬屋の馬を褒める

意味があるのだとか、

素朴な笛の音色に合わせて獅子が舞い始める、

見守るのは、意外にも子供達が多いのです、

何度も何度も同じ仕草が繰り返されます、

そこにまるで異質のモノが登場する、派手な衣装の猿です、

なにやら腰の辺りに撒きつけた真っ赤なイチモツを握り締めて

微妙な腰つきで舞い踊るのですよ、

世話役さんが小声で

「安産、良縁祈願なんですよ」

道祖神祭りなどに現れる巨大なイチモツとは異なり、

ユーモア溢れるその猿の踊りに場は一気に和み始めるのです。

日本人は、昔から性に関しては大らかな国民だったことが

忍ばれる愉快な踊りに子供達は興奮し始めるのです、

猿の尻尾を握り締める者、

猿に抱きつかれて泣き出す小児、

きっと子供達が無事に育ってくれるようにとの願いが

込められているのですね。

十分の休憩を挟んで、後半は40分の永い舞いです、

あの素朴な笛と抑揚を抑えた謡が此処に集う者たちを

遥か昔へと誘うように感じます、

獅子舞の太鼓の音に合わせて猿の道化がささらを

馴らしながら舞い踊る、

そして、舞台の端に置かれていた花笠が此処で登場、

その花笠が合わさると、雌獅子を隠してしまう、

これは「雌獅子かくし」の所作ではないですか、

その隠された雌獅子の周りを二匹の雄獅子が舞い続けるのです、

実に人間臭い舞いではありませんか、

なんだか雌を雄二匹が奪い合っているようにも見えてきます、

大らかで、隠し事の無い人間の本能を舞いの中に示していた

先人たちの喜びの声まで聞こえてきそうでした、

全ての舞いが奉納されると、そこに居合わせた人々に

お菓子とみかんが振舞われた。

いただいたみかんをポケットにねじ込んで、

神社を後にしたのですが、

あたりは真っ暗で帰り道がわからないのです、

うろうろしていると、先ほどお目にかかった外国人の方が

「駅ヘイクミチ ワカリマセン・・・」

それでは一緒にまいりましょう とそぼ降る雨の中、畑の道を

とぼとぼと同行二人の祭り旅、

お聞きすれば、イギリスからの大学教授とのこと

「ニホンノカグラオモシロイデス」

神楽が繋ぐ縁とは・・・

再会を約して駅でお別れをいたしました。

人間の深層心理には国の違いなどないことを知った

祭り旅の途中です。