珍しく仕事に精出してデスクから目を窓の外へ向けると

「あれ、もう夕暮れになっちまったよ」

慌てて仕事を終わらせフラフラと事務所を後にした。

仕事を途中でほったらかすのかって言うのですかい、

だって仕事は明日でも出来るけど、今日の夕闇前の光は

二度と取り返せないものね。

浅草って言ってもね、

人で溢れて毎日祭りかと間違える場所があれば、

まるで昭和がそのまま残ったような寂れた裏通りも

あるんですよ。

今年は二の酉まででしたが、そのお酉様が終わっちまうと

納めの観音、羽子板市までしばらく静かな浅草なんですよ、

ところが霜月に雪が降って

「こりゃ、冬が早いぞ」

なんて覚悟してたら、またいい陽気に逆戻り

寒かったり、暑かったりを一日ごとに繰り返されちゃ

老人は身が持ちませんぜ、

寒がりのアタシだって、上着に襟巻きなしで

汗かいちまってるんだもの、

すれ違った若い衆なんぞ半袖だぜ、

たく!どうしたってんだこの陽気は、

「小言はオヤジの特権だ!」

って威張ってみたって

天候が変わるわきゃないですがね、

それでも上天気のおかげで浅草は押すな押すなの

人波が途切れることはありませんぜ。

近頃巷に流行るもの

 若いひとの和服姿

おっ!日本人の若者もいよいよ日本文化に

目覚めたかと嬉しくなって声をかけれど

顔は日本人みたいですけで、会話はちんぷんかんぷん

ありゃ、きもの文化も異人さんにもってかれちまいましたか。

銀座、赤坂、六本木あたりじゃ、それクリスマスだって

あっちこっちに電飾飾り初始める頃合いですが、

浅草じゃその異人さんのお祭 クリスマス つーのはやらないんですよ、

ありゃ、浅草には似合わないもの、

師走の声を聞けば、一斉に正月飾りが浅草なんですよ。

街頭スピーカーから流れてくるのは新内三味線の音色、

間違っても、ジングルベルは鳴らないからね。

それにしてもなんて温かいんだろね、

昔は、お酉様っていえば、外套に襟巻き巻いて

「寒(さぶ)くなったね」てのが挨拶だったのによ、

しょうがないから、股旅の兄さんに声掛けたが

「あっしにはかかわりのないことでござんす」

と軽くイナサレ、

つつーと前のめりにたたらを踏んだところが

流し目姐さんの足元でござんすよ

「あんた近頃小言が多いよ!!」

「こりゃどうも・・・」

頭掻き掻き浅草散歩ございます。