もう何度この櫻に会いにきただろうか、

いつも人が帰ってしまった夕暮れの中で向かい合っていた

櫻の朝の姿に会ってみたいと思い立ったのは夕べのことでした。

日の出とともに東京を飛び出し北へ走り出す、

途中休みも取らず一気に走りきれたのは、まだ身体に

漲る力が残っていたからだろうか、

年々体力が落ちてくるのを実感として感じるのは、

実は旅に出た時なのです、

以前なら300kmくらいの距離なら当たり前のように

走り回っていたんです、

それが、いざ、到着して車から降りようとすると、

「ドッコイショ!」

おもわず 苦笑い・・・

それにしても、あとからあとから押し寄せる人の波、

毎年繰り返される櫻狂想曲の始まりです。

出演は ソロリスト 瀧櫻姫 ただひとり

一条の朝の光がスポットライトとなってその姿を浮き上がらせると

ドーッと観客のどよめきがあふれ出す。

もし舞台女優がこの姿を見たら、きっと嫉妬するかもしれませんよ、

「立っているだけで何でこんなに

  感動させられることが出来るの・・・」 と、

「ああ、ありがたいね・・・」

孫に連れてきてもらったという婆さまは思わず手を合わせると

そう呟いた。

この櫻を見るために全国から人が集まってくる、

たった一本の櫻の持つ力に人は惹きつけられてしまうのです。

「三春瀧櫻」その名を聞いただけで

「すごいらしいね」

「千年も生き続けてるんだって」

しかし、いざその櫻の元に佇むと、思わず手を合わせたくなるのは

その櫻に神の存在を感じるからかもしれません。

360度の円形舞台の真ん中で、彼女は嫣然の微笑む

命のきらめく瞬間を、周りを埋めた観客の胸に刻みつけながら

「ああ、あったらか(もったいない)」

長崎からやってきた婆様がつぶやく

「あれ、どってんしたじゃ(びっくりした)」

岩手の爺様が腰に手をあてて唸っている。

「やっぱり来てよかったわね」

熟年夫婦がお互い顔を見つめる。

次から次とやってくる人々の顔は、やがて笑顔につつまれていく、

驚きがやがてこころの充足に変わると人はそれぞれの胸に

彼女の姿を刻みつけて帰っていく、

櫻の下で宴をするわけでもなく、ただただ咲き誇る櫻の姿を

見つめながら、今日も全国から人が集いあうのです。

三春 瀧桜の下で