毎月18日は観音さまのご縁日、特に師走の18日は

今年一年の御礼と来る年への願いとを祈願する最後の

ご縁日、

「納め観音」詣での日ですからこの日だけは

他所へ浮気するわけには参りませんでしょ、

まずは、雷さまと風神さまにご挨拶、

今年の夏は、あの暑さでさすがの御両人もヘトヘトで、

疲れ切った顔が思い出されますよ。

「はい、お疲れさまでございました」

仁王さまにも御礼を申し上げ、本堂へ

いやいやどうですこの大屋根の反り上がり、

一年半の屋根葺き替え工事も完成、

何でもハイテクなチタン屋根瓦で、

相当軽くなったとか、

その分、費用は随分掛かったとでしょうな、

まあ、そういう下世話なお話は

ひょいと屋根の上に投げ入れて、

これで、アタシがいくら長生きして

もびくともしない姿を眼に焼き付けて、

観音様にお礼参り、

「今年も一日も休むことなく歩き続けることが

できましたのも観音様のご加護でございます、

アリガタヤ、アリガタヤ。」

さてと、今年の歳の市でも冷やかしてまいりますか、

今年は仁王門より内の境内に羽子板市が集められ、

何時もと勝手が違いました、

羽子板は毎年決まった店で買い求めておりましたが、

そこのオヤジさんが姿を見せなくなってからは

ピタリと買うのを止めてしまいました、

そのオヤジさんの作る押し絵羽子板に

惚れ込んでおりましてね、

ある年に姿が見えなくなり訪ねると、

病気で入院したとのこと、

あのオヤジさんの職人気質に裏打ちされた作品に

惚れ込んでいただけに

他所へ浮気するわけにもいきませんでしょ、

「きっと元気に戻ってくるよ」

という女将さんの言葉を信じて待っているんです。

あのオヤジさんのいない羽子板市を早々と後に、

いつもの散歩といたしますか、

巷じゃ、クリスマス一色の中で、

全くクリスマスに見向きもしない

浅草の生き方になんだか一途な心意気を

感じませんかね、

仲見世通りで立ち止まれば、

どうです、もういつ正月が来ても準備万端

ととのっておりますよ。

あれ、せっかちな戌(いぬ)まで顔を出しちまって、

まあ、その辺は大目にみてやってくださいまし、

「カラン、コロン、カラン、コロン」

下駄の音も高らかに納め観音の夜が更ける

浅草散歩でございます。

(2017年 浅草 納め之観音)