(古隅田川)

浅草の目の前を流れる隅田川は

かつてといっても400年も昔のことですが

利根川本流が隅田川に流れ込み江戸湾に流れ込んで

いたのです、

吾妻橋の上でぼんやり川を眺めていると、

隣のオヤジさんが面白い話を聞かせてくれましてね、

「四百年前の隅田川が流れていた跡が今もあるんですよ」

こういう話に飛びつくのが旅人というものでしてね。

その場所は足立区と墨田区の境界あたりに古隅田川として

今も遺跡のように流れていたのですよ。

小さな流れの土手には成長途中の桜が植えられており、

丁度、はらはらと散り始めたところなのです。

古墨田川といっても今は小さな小川のような流れに

興味は桜に移ってしまうのは当然ですよ。

旅と言うのは行った先で必ず物知りの人に出会えるものでしてね、

その方は吾妻橋の上で出会ったオヤジさんに輪をかけた面白い話を

してくれたのです。

「このすぐ近くに桜の公園があるんですよ」

「桜の公園って何処にも見当たりませんよ」

「ええ、道路を歩いていても見つからないのですよ、

 あたし等は天国の楽園って言ってますがね」

そっと教えていただいたその場所は・・・

長い長い上り坂を息を切らせながら登りきったその先は

大きな公共施設の屋上になっているのです。

これでは下の道路からはわからないはずですよ、

ここにこられるのは自分の足で歩ける人だけなんですね、

そこには日本庭園があり、池には沢山の鯉が泳いでいるのです。

「なるほど、此処は気付きませんですよ」

そしてさらに歩を進めると、その公園は桜の園なんです。

三組ほどの人々が静かにお花見をしているだけのまさに

此処は 桜の楽園 ですね。

90本ほどのソメイヨシノは満開を過ぎているため花見客も

少ないのかもしれませんね。

その時でした、吹き抜ける風が桜の木を揺らし始めると

まるで雪が降るような花吹雪ですよ、

その桜の木の下で見上げていると、花びらが顔に当たるのです、

まるで桜の花に意思があるようにパシッ、パシッと意外な重さを

感じさせるのです。

小さな童女が歓声をあげながら舞い踊る姿のなんという

麗しさでしょうか。

この光景に出会うためには、人との縁があったお陰だった

のですね、

これだから旅はやめられないのですよ、

偶然の積み重ねこそが旅を面白くしてくれるのです。

だからアタシは今もスマホは持っていないのです・・・