光則寺を訪れるのは、いつも盛りが終えた後の

静寂が辺りを覆い始めた頃なんです、り、

自分と向き合える貴重な場をこの寺がかなえて

くださるからなのです。

それは冷たい雨のそぼ降る夕暮れであったり、

桜が散ってしまった後の虚脱感が辺りを

覆い始めた頃だったりするのです。

有名観光地ではあっても、

朝から晩まで人が人で溢れる浅草とは異なり、

少し時間をずらして訪れると、昔のままの詫びた情景が

そっと顔を出したりするのですよ。

「今年の冬はことのほか厳しい寒さですよ」

立春が過ぎたとはいえ、コート無しには歩けない寒さに

ジャケットにマフラーを巻いただけで歩くのは

年寄りには辛いものがありますよ。

「春を待つ人は 心優しい人ですかね」

呟いた老夫妻は、そろそろ暮れなずむ空を眺めた後で

立ち上がると

「そろそろ帰りますわ」

「下り坂は滑りますから足元に御気をつけて・・・」

微笑みの会釈を残して、ゆったりと

夕暮れの町へと戻っていかれた。