通りに出てみると、二基の宮神輿が宮入前の揉み合いを始めて

おりました。

「ヨイヨイヨイヨイ!」

「ワタシャ カマクラ リョウシノコ・・・」

「ドッコイ ドッコイ ドッコイソーラ!」

歌が流れると、合いの手が入る、歌の内容は明らかに

漁師のものでした、海の安全を祈るこころに溢れたいい歌です、

二基の神輿は夫婦を表しているのでしょうか、寄り添って一緒に

揉まれている姿がとても温かいのですね。

二基の神輿の揉み合いが収まると、

一基だけの神輿が神社へ向かいます。

参道の細い道をゆっくりと歌に合わせながら進みます。

神輿の後ろから氏子の善男善女が続いていく、

爺ちゃんに肩車された幼児が掛け声に合わせて

揺れている。

祭りで小児を肩車するのは意味のあることでしてね、

地面というのは世間、

世間の穢れを付けさせないために、小児を肩車して

地面に下ろさないという風習をこの老人は守って

いるのかも知れません、

小児は神の子なんですよ。

鳥居を慎重に潜ると、いよいよ宮入です、

花棒を若者達に譲りながら、何度も何度も神輿が揺れる。

嗚呼 なんと優しい祭りなのでしょうか、

我先に花棒を奪い合う祭りが多い中で、何度も譲り合う姿に

祭りの本来持つみんなで祝う心が滲み出ているのです。

花棒を担いだ若者たちは、きっとこの時の感激を何時までも

記憶に残すに違いありません。

担ぎ手の半纏は、宮元の長谷睦のほかに、

八雲睦、蛭子睦、極楽寺睦、

はては県外からも馳せ参じているらしく、

そんなところから自然と譲り合うやり方が芽生えて

いったのかもしれませんね。

祭りにはこれだけというやり方はないのですよ、

その町の人々の考え方が、伝え続けられてきた風習に外れない限り

その時代の人々が、気持ちよくなれるやり方を実践してもいいのだと

つくづく感じ入るのでした。

世話人幹事さんの拍子木の音が境内に鳴り響き、

無事宮入リが納まりました。

いよいよ宮入り神事が薄闇の境内で宮司により

厳かに始まります。

半纏を汗でぐしょぐしょにした担ぎ手の若者たちが

被りの鉢巻を外し礼を尽くしています。

祝詞が詠まれ、祭りの無事を感謝し、見事に宮入り神事が

終了すると、直会(なおらえ)の始まりです。

神様からのお神酒が運ばれると、世話人幹事さんがまず頂きます、

枡になみなみと注がれたお神酒をグイと飲み干す、

周りから

「サセ サセ サセ」の大合唱、

次々に各睦の代表がお神酒を飲み干していく、

飲み干した枡を肩に乗せて神輿担ぎのポーズをとる人有り、

踊り出す人あり、こんなになごやかな直会は初めてです。

町内の異なる人々が輪になって楽しんでいる姿こそ

祭りの持つ一番大事な和だったのですね。

爺ちゃんから孫へ伝える心意気、

人生の先輩から若者たちへ伝える心意気、

人は和をもってつながれることの心意気、

土地の持つ地霊への感謝、

祭りとは、言葉ではなく、身体で全てを感じ取れる体験だったと

改めて感じ取っていた祭り旅の途中でございます。

本当にいい祭りでした。

(2017年9月記す)