窓の外をいくら眺めていても止む気配など全くありません、

「雨の日は雨の中を歩くだけさ」

と気取ってみたが、余りの冷たさに先ほどまでの

潔さはどこへやら、

「まるで真冬じゃないかね」

誰に言うわけでもなく悴んだ手に息を吹きかけながら

来てはみたものの、

さすがの梅屋敷も人っ子ひとりおりませんよ。

「やれやれどうしたものか・・・」

受付係りの婦人が気の毒そうに

「梅は六分咲きくらいになりましたが生憎のお天気で」

と気の毒そうに入場料を受け取った。

「なーに、好きで来たのですから」

と園内に入ってみたものの、いつもの茶店は早々と店仕舞い、

仕方なく庭の東屋で雨宿り、

「それにしても容赦のない雨だね」

唐梅(トウバイ)、

道知辺(ミチシルベ)、

紅千鳥(ベニチドリ)の

紅梅は丁度見頃を迎えている、

その可憐な花に冷たい雨、

まるで花が涙を流しているではないですか、

傘を差しかけてやるわけにもいかず、

「お前さん方、風邪などひきなさんなよ」

と声を掛けたところで

「ハクション!!」

気温二℃ですよ、こっちが風邪をひきそうですよ。

何時の間にか霙交じりの冷たい雨、

何を好んで修行の真似事か、

なんて自嘲しての梅見かな でありますよ。

 「春されば まず吹くやどの梅の花
   
   ひとり見つつや 春日暮らさむ」

      万葉集 巻五 山上憶良

ひとりで梅の花を眺めていると、もう旅立ってしまった

懐かしい人を思い出して、切ない気分になるものですが、

霙雨に濡れそぼる可憐な花を眺めて何を思えばいいのですかね。

冷たい雨の中、ひとり佇んで梅を眺めて詠む

なんて物好きは万葉の時代でもいなかったでしょうね、

いや、もしかしたら・・・

 「雪の色を 奪ひて咲ける 梅の花

    今盛りなり 見む人もがも」

       万葉集 巻五 大伴旅人

なるほど、雪に梅なら絵になるのですね、

アタシはへそ曲がりなので、こうなったらとことん雨の梅に

拘ってみますよ。

 梅の木の下で見上げれば雨が顔にふりかかる、

傘を差せば梅の花が見えなくなる、

 紅梅(ベニウメ)の 頬濡れそぼる 余寒かな 散人

うーん、風流は哀しく冷たいものですな、

 冷た雨 独り占めする 梅見かな  散人

びしょ濡れの足のつま先まで凍えそうですよ、

粋を気取って来てみたものの、凍みとおる寒さの前であえなく退散、

とりあえず・・・ お汁粉ですよ ね。