二月如月というのは、華やかな正月気分も失せ、

平常に戻ってみると、寒さばかりが身にしみて

思えばつらい季節でありますな。

節分だ、春分だと騒いでみても日々の凍りつく陽気に

だんだん調子は下り坂、バレンタインだとはしゃいでみても

線香花火が弾けた程度で、再び元のつらい日々に逆戻り、

「やれやれ、何かいいことないかな・・・」

まあ、バレンタインデーなどと聞いても、アタシ等の若いころは

そんな特定日はございませんでしたから、

別段、チョコレートなど頂かなくても何の感慨もありませんが、

こうつぶやくとなんだか負け犬になっちまったような気がするのは

やっぱり気にしてということですかね、

そこへ冷たい雨の追い討ちというのは、神様も罪なことをなさいます

ですよ、

世の中には、世の女性から見向きもされないという哀れな男共集団が

ごまんといるというのにね。

そういえば、今宵は木曜日じゃないですか、

仕事を片付けた勤め人にとっては

仕事疲れで一番つらい日ですよ、

駅を降りると、仕事帰りのおじさんたちは

諦めて家路に急ぐ雨の宵、

それでも、果敢にも冷たい夜の街へ繰り出す

若者の歓声が遠くで微かに聞こえてくる。

「なんだ、自棄酒かいな」

当てのない散歩のおじさんは通いなれた街を

歩き出すのでございます。

「寒いだろう」っておっしゃるんですか、

なぁーに、これくらいの寒さは、北国の人が聞いたら

鼻先で笑いますよ、

こっちだって、昨日今日歩き始めた旅の素人さんとは

違いますよ、

15分もを歩いてごらんなさいよ、体はぽかぽかしてきますから。

なぜこんな寒い雨の日を散歩するのか ですか、

街の姿ばかり追いかけているアタシのような旅好きにはね、

お天気の日じゃ絶対に見つけられない飛び切りの麗しい景観が

見つけられるからなんですよ。

太陽というのは何でも白日の下にさらけ出してしまうでしょ、

月は夜の街を情緒的にし過ぎるしね、

ところが冷たい雨というのは、海の上で明かりを失った

難破船に乗り込んでいるみたいな気分を味わえるのですよ、

暗闇の路地から表通りに顔を出すと、

「ああ、助かったんだ!」

なんて思わず顔がほころんだりしてね、

そんな舞台を作り出してくれるのが 

 冷たい宵の雨 というわけですよ。

思い切って冷たい雨の中を歩いてごらんなさいよ、

手は悴み、目はうつろ、そんな心が負けそうな時なんですよ

雨の舗道の美しさに気がつくのはね、

なんだか舞台の上の主人公になったような気になりますから、

見てるだけじゃわかりませんよ、

だって、うつむいて歩いていたからこそ気づくものがあるのですよ。

きっと、夢と幻の狭間を浮遊している気分を味わえますからね。

大都会が愛しく思えたらそれだけで、

宝物を見つけられた気になりますから・・・