2010年03月06日(土)
湯島の境内
『湯島の境内』 泉鏡花
冴返る春の寒さに降る雨も、
暮れていつしか雪となり、
上野の鐘の音も氷る細き流れの幾曲、
すえは田川に入谷村・・・
昨日は桜も咲くやと思うほどの温かさ、
一夜明ければ冷たい雨
切り通しを抜けてやってきたのは湯島の女坂、
端から女坂を登るとは我老いたるかな。
故あって本日は縁結びのお願いに、
はて、学問の神様に縁結びはいかがなものかと
巫女さんにお尋ねすれば、
「縁結びにも霊験あらたかで」ございます」
とにこやかなご返答にほっとしてご本殿へ、
それに致しましても、この国の学問に対する情熱は果てが
ないようでございますね、
その絵馬に託した願いに情熱のほとばしりを感ぜずにはおりませんですよ。
ちょっと待てよ、ここは湯島の境内でしたね、
あの早瀬、お蔦の別れの場面ではなかったか と
躊躇せしも、神様はすべてお見通しとあらためて
手を合わせ切にお願い申し上げるのでございます。
「なにとぞ良きご縁を、いえ、アタシではなくかの異国に
おります青年に・・・」
漂うのは馥郁とした梅の香り、
大宰府からでも飛んでくる香りであれば英吉利へも
届けとばかりの代参でございます。
花の命は短くとも、その命に触れたれば
きっと幸せになれそうな気になるものでございますね。
母にゆかりの「小唄塚」にも手を合わせる。
『人と契るなら』
人と契るなら
薄く契りて末まで遂げよ
もみぢ葉を見よ 薄きが散るか
濃きが先ず散るものに候
そじゃないか
粋な母の歌声が聞こえますぞゑ
『待てと言うなら 』
待てと言うなら 五年はおろか
柳新芽の枯れるまで
とかく浮世はきさんじな
のほほんで暮らしゃんせ
めっきり冷えてまいりました、
帰りは男坂をひょいひょいと下り、いつもの甘味処へ、
暖簾を掻き分けたところで、
蛇の目をさしかけた粋な姐さんと鉢合わせ、
「おっと失礼!」
「こちらこそ・・・」
こいつは春から縁結びかいな、
にっこり気分で
「おばちゃん、お汁粉頼みますよ」
湯島天神にて
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