『茶 摘』

夏も近づく八十八夜

野にも山にも若葉が茂る

「あれに見えるは茶摘みぢやないか

あかねだすきに菅の笠」

世の中、やれゴールデンウイークだ、渋滞だ

などと大騒ぎしているうちに はや八十八夜も過ぎ

もう「立夏」ですよ。

そういえば以前に訪ねた鹿児島では

あの薫り高い知覧茶の茶摘が終わっているのでしょうね。

同じ日本とは云え、南国では田植えも終わり、もう麦の穂が

出始めている、一方、北の国では、やっと梅が咲き

桜を今や遅しと待ち構えているという。

さて、東京は、あの寒さに震えた春はもう昔話、

燦々と照りつける陽ざしは夏の片鱗を見せ付けている。

ただ歩くだけで額に汗が浮かんでくる 

「ほら、夏だよ!」

それじゃ遠くへ出かけるより近くの夏でも拾いにまいりますか、

何時もなら東京を逃げ出すために一気に通り過ぎる

自動車専用道路、騒音防止の遮蔽壁に遮られて外の景色も

見られないままただ通り過ぎていくその高架道の真下を

複雑な歩道橋が空に向かって続いている。

無機質なその歩道橋を渡りきるといきなり東京の空、

「東京にもこんなに綺麗な空があるじゃないですか」

初めて歩く街、

そのお宅の主人の人柄が偲ばれる丹精こめた花の色、

道行く人の心を慰めるように咲ききっている。

目的があって歩いていたらきっと通り過ぎてしまっただろう

その古色麗しい寺の門前で立ち止まったのは、

花のかほりでした、

何気なく手を合わせた地蔵様は260年前からこの地の人々の

願いや祈りを受け止めておられるという。

お目にかかったのは若い僧侶、多分この寺が創建されてから

何十代目かの責務を日々受け止めておられるのでしょうか、

律儀な文字で綴られた 大乗の十來 

一、富貴は慈悲より来る
二、福徳は喜捨より来る
三、無病は信心より来る
四、愛嬌は忍辱より来る
五、高位は礼拝より来る
六、知恵は精進より来る
七 病身は不浄より来る
八、短命は殺傷より来る
九、貧窮は慳貪より来る
十、患盲は破戒より来る

何度も読み直しては何度も頷く。

どうやら、命の洗濯だったのだろう、

軽やかな足取りで再び歩き出せば

西の空は夏色

どうです、散歩は侮りがたし。

千住大橋の上で吹き上げてくる川風に汗を拭く。

今宵も清志郎を聞こう・・・