小正月を迎える前のあの日は耳が千切れるほどに

木枯らしが吹きぬけていた、

隠れる所の無い其の場所でじっと見上げていたんです。

それは明らかに人の手が加えられた丸い小山なのです。

帰り掛けてふと振り返った時、あの花のない櫻が呼び

かけていたように感じてしまったのです、

三月(みつき)の間、あの櫻のことばかり考えて

いたのです。

あの大きな塚の中で眠りについた古代の王はどんな夢を

描いていたのだろう、

「ワシは必ずもう一度蘇ってみせる」

そう言い残して膨大な労力と何処から運んできたのか、

これも膨大な土でこの平坦な地に丸墓山を造ったのです。

あの日と同じように、いやもっと凄まじい北風が身体を

吹き飛ばす勢いで吹きつけてくる、

まるでそれは地の底から蘇ってきたあの王の唸り声のように・・・

下から見上げた其の先にあの櫻がまるで大きく羽ばたくように

その大風の中で舞っていた。

櫻という姿を借りて唸り声を上げるその古代の王の叫び声が

聞こえますか・・・

私にはたしかに感じられました、

「ワシは今も生き続けておる、ワシの姿が見えるか!!」

その大風に乗って確かにそう聞こえていたのです。

若い二人とすれ違うと、ひとりの婆様がその櫻の下から

姿を現した。

「おばあちゃん気をつけなよ、吹き飛ばされるから」

「なーに大丈夫さ、今天国を見てきたんだから」

「えっ、天国・・・」

「ああ、あそこは天国じゃ、あんな美しい花が

 咲いているのだったらいつお迎えが来てもいいさ」

「そんなに急ぐことはないよ、ここで階段踏み外したら

 本当に行っちまうからさ」

一歩、一歩慎重に下りてきたその婆様は振り向くと

「あんたはまだ行かんでええよ」

とニヤリと笑った。

階段を登りかけていた途中で上まで行くのを止めた。

「婆ちゃん行くの止めたよ」

そしてその丸墓の周りをゆっくりと巡った。

しばらく歩いては見上げる度にあの櫻は姿を変えるんです、

まるで生きている人の姿のようにね・・・

「あれは紛れも無く古代を映す櫻です」