飯岡刑部岬から始る長い長い砂浜は太東崎で

その砂浜が尽きる。

その長い砂浜は九十九里浜と呼ばれ、イワシ漁の地引網で

浜に賑わいがあった。

今は静かな砂浜に、尽きることの無い波が打ち寄せるだけ。

九十九里浜の風に吹かれながら訪ねたのは太東漁港でした。

砂浜が尽きる目印のように丘陵が立ち上がり、そのがけ下に

小さな漁港、防波堤に押し寄せる波はさすがに太平洋の荒波、

折からの烈風に波はしぶきをあげて防波堤を乗り越えてさえくる。

さすがにこの風では漁は休み、港内には数隻の漁船が波に揺れている。

西の空を遮るように断崖が目の前に聳え立っている。

あの崖の上に上がったらさぞ眺めがいいだろうな・・・

そんな想いで、太東岬の灯台目指して上ってみると、

遮るもののない崖上は立っているのがやっとの烈風が吹き荒れていた。

延々とつづく九十九里浜、足を踏ん張って遥かな海原を見つめると

地球は確かに丸いことがはっきりと見て取れる。

「ウワーッ!凄い!」

突然、歓声があがった。

若いカップルがこの崖の上にやってきたのだ。

眼下の逆巻く海原を見つめていた二人は、振り向くと急に

押し黙ってしまった。

西の空が紅く染まり始めていた。

「いい刻に来たみたいだね」

「自然って凄いすね、オレ、こんな素晴らしい景色見るの

初めてっすよ」

風に吹き飛ばされないように足を踏ん張ると、

飽かずにその天空の舞台劇を見つめ続けるのでした。

どのくらい其処に立ち尽くしていたのでしょうか、

あまりの寒さに我にかえると、

「寒いっすね、手が悴んじゃったよ」

彼女はその冷たい彼の手をそっと包むように握り締めた。

ああ、あたしは邪魔者になったみたいですよ、

「お先に」

と声をかけるとその場を後にいたしました。

太東灯台がシルエットに浮かぶ冷たい風に背中を押されて

坂道を下っていくうちに、アタシの手も動かないほど悴んで

おりました。

誰も暖めてくれる人もいない旅の途中・・・