年の瀬の浅草は夕暮れが早くて、気がつくと

もうどっぷりと夕闇が覆いつくしてしまうのですから、

あっちこっち飛び歩く隙もありませんですよ。

だから本日も浅草散歩でございます。

「カラン・コロン カラン・コロン」

さすがに素足じゃ寒くて足袋に履き替えて散歩に

出かけるくらいのたしなみは忘れずに 

さても歩き出せば、いよいよ正月飾りが

華やかな気分を盛り上げてくれますね。

「よう、源さん!めずらしく急がしそうじゃないかね」

「あっ、何だ散人じゃねぇか、暇人と一緒にしねぇで

 くれ、こちとら掻き入れ時だ」

「あーあっ、そりゃ残念だ、一杯奢ろうと想ったのにな」

「ちくしょう、そうやって人をおちょくってろよ、

 そのうち観音様のバチが当たるからな」

久し振りに千鳥足じゃない源さんの真面目な姿に妙に

嬉しくなっちまいましたよ。

「これから何処へ行くんだ、」

「そのバチが当たりませんようにって観音様にお願いにだよ」

「暇人に付き合ってる暇ないから、オレは行くぜ!」

相変わらず仕事をしてる時の源さんは格好いいですな、

 きっと女将さんが惚れたのはあの後ろ姿だったかもね。

「あと五日か・・・」

こうしちゃいられませんよ、アタシもせかせかと観音様へ、

「えーっ、来年も源さんの仕事が沢山ありますように」

さてと、仲見世はもう正月が来ちまったようじゃ

ありませんかね、

「用意万端整いました」

ってぇ気分でありますね。

カラン、コロン、カラン、コロン、

やけに下駄の音が響くと思ったら、

ちょいと横丁曲がれば、不景気だった今年の闇が

そこらに漂ってますよ、

のんびり歩いてると、貧乏神がせっついて

きそうじゃないですかね、

ひょいと見ると、背中に貧乏神が取り付くところ、

「オヤジ、そんなところでぼーっとつっ立ってると

 病気になっちまうよ」

「おらぁ、どうせ行くとこがないからいいんだ」

そうかい、余計なこと云っちまったな、ゴメンヨ!

カタカタ、カタカタ、

急ぎ足で通り過ぎる歳の暮れでございます。