「深川七福神」

恵比須 富岡八幡宮

弁財天 冬木弁天堂

福禄寿 心行寺

大黒天 円珠院

毘沙門天 龍光院

布袋尊 深川稲荷神社

寿老神 深川神明宮

私が何十年も旅を続けることが出来る理由のひとつに

何処でも眠れるという特技がありましてね、

普段も、寝床に入ると本を読むのですが、2ページも読まない内に

もう眠ってしまうのですよ、これは、我が家ばかりでなく、

旅先のホテルでも旅館でも、民宿だろうと、寝床が変わり、枕が変わっても

全く関係なし、夏などは、座布団一枚借りてスヤスヤ眠るなんてことも

当たり前で、友人に言わせると、

「アイツは眠るための神経が元々ないのだ」

と云われるくらい、眠ることに悩んだことがないのです。

その直ぐに熟睡できる体質は、夢を見るということもほとんど無いのでして、

多分、毎日あても無く歩き回っていることが、身体を疲れさして眠りを

深くしているのかもしれませんよ。

ですから、今年の初夢も全く見ることなく松も明けてしまったのですが、

昨夜、珍しく夢をみましてね、

閻魔様が怖い顔で睨んでいる横で、婆さんが手招きしてるじゃないですか、

こりゃ、三途の川に違いない、そんなところへ引っ張り出されるのは

マッピラ御免だと駄々を捏ねていると、

その婆さんがどんどん近づいてくるではありませんか、

逃げようともがいていると、その婆さんは何時の間にか オフクロの顔に

代っているのですよ、

夢はそこでぷっつりと途切れてしまいましたが、

眼を覚ますと、何だか気に成りましてね、

オフクロはまだ三途の川の辺りでうろうろしてるのかな、

いや、待てよ、オフクロは下町深川高橋の生まれで、シャキシャキの下町っ娘

でしたから、けっこう仕来りにうるさかったんですよ、

「いけねえ、まだ深川の八幡様に伺っていなかった」

「そうだ、三途の川から引き上げるには、神様・仏様のお力を

お借りしなければ・・・」

てんで、直ぐに思いついたのが神様・仏様・インドの神様まで総動員

してくださる 七福神参りですよ、今年は向島で巡って参りましたので

安心していたのを、深川生まれのオフクロはきっと気に入らなかった

のですよ、去年の夏は深川の夏祭りに大いに盛り上がったのに

今年は年始のご挨拶もまだだったのです、

深川の七福神巡りは 元日から15日まででした、間に合いますよ、

地下鉄に乗り込んで、まずは富岡八幡宮へ、

なにしろ江戸最大の八幡様ですから、大勢の人が参拝に見えておりますよ、

ずらりと並んだ初詣客の後ろで足踏みしながら順番を待つ、アタシは

オフクロに似て、セッカチでして、じっとしてると福が逃げちまうんじゃ

ないかって思う性格なんですよ。

参拝を済ませると、脱兎の如く恵比須様の元へ、

今度は 冬木弁天堂へ、弁天様は音楽の神様だっていうから、小唄の師匠には

うってつけだ、うん、待てよ、オフクロは三味線の名人だったっけ、

こちらの弁天様は琵琶だものな、慌てて次の神様のところへ

こちらは福禄寿様、手を合わせていると、長寿をつかさどる人望福徳の福神と

書いてあるじゃないですか、オフクロ十分長生きしたし、これ以上長生きなんか

望んじゃいないだろうしな、だいち、ぴんぴんコロリが望みだっていうのが

口癖だったしな、いけない、モタモタしてると夕暮れが近づいてくるよ、

次は大黒様、財宝糧食に効き目があるとか、でももうオフクロには

財宝も必要ないだろうしな、

次は毘沙門天様ですよ、邪鬼を踏みつけ毘沙門立ちをしている姿は

何だか三途の川から助け出してくれそうじゃないですか、

念入りにお賽銭弾んで今度は意気揚々と深川稲荷神社へ

こちらは布袋様、あのニコニコ笑顔と楽天的なお姿があれば

きっと大丈夫だって気になってまいりました。

そして最後は深川神明宮の寿老神様、

高橋を守っていただいている氏神様ですからもう大丈夫です、

「オフクロ、ちゃんと神様・仏様にお願いしてきましたから大丈夫ですよ」

こうして、新たな年はしっかりと地に足をつけて始まったのでございます。