「えっ!北杜市?ですか・・・」

そんな町の名はなかったはず、と聞いて見ると

平成16年(2004年)11月1日に、

峡北地域の明野村、須玉町、高根町、長坂町、大泉村、

白州町、武川村の7町村が合併、更に平成18年3月15日

小淵沢町と合併し人口5万人の北杜市としてスタートした

のだという。

北は八ヶ岳連峰、

南西は甲斐駒ヶ岳から連なる南アルプス、

東は茅ヶ岳、北東は瑞牆山そして

東南には富士の姿が見られる絶好の地でも

あるのです。

冬空に浮かぶ山並みを眺めるために空ばかり見つめながら

小道を行くうちにどうやら迷い込んだ集落は、

新しい名の町にしては昔のまま残されたような

美しい町並みでしてね、

正月の飾りが、道野辺の石仏まで飾られ、

昔を大切にする風習がきちんと残されているのです。

小さな四辻にある小さな社には、大きな花笠が天に届けとばかりに

飾られている。

警笛が鳴り、振り向くと山から材木を切り出してきたトラックが

止まっている、アタシの車が邪魔しているのは確かなこと、

余所者のアタシは頭を下げ、細い坂道をバックして路地へ

車を移動、こういうチャンスは見過ごさないのが旅の極意、

「あの、八ヶ岳が見える場所はありますかね」

助手席の老人は車を降りてきて、丁寧に道を教えてくれましてね、

「道が凍っているから気をつけて行きなよ」

地図にも載らない特別なその場所は、この集落のご先祖様が

じっと八ヶ岳見つめておりましてね、

アタシは手を合わせると、皆さんと一緒に八ヶ岳を眺めました。

山は雪ですね、雪雲がすっぽりと山を覆いつくしている、

「これから山に向かっても、雪で何も見えなくなるだろうな」

こういう判断をするのが旅の中の一番の楽しみなんですよ。

八ヶ岳から吹き降ろす北風は遮るものの無いこの場所に

容赦なく吹き付けてくる。

「みなさん、寒くないですか」

アタシはその並んだ墓石にそう話しかけていた。

「もうそろそろ寒さに耐える限界が

まいりました、どうぞお元気で・・・」

挨拶をしてくるりと振り返ると、落葉松の森の上に

雪を被った山法師、

「あっ! 富士ダ!」

あわてて、その姿がはっきり見えるところまで移動、

御坂山塊の上にすっくと夕焼けに染まる富士、

それは、この寒空に振るえながら佇んでいる旅人への

自然が贈ってくれたご褒美のような気がしておりました。