(ミツマタ)

寒中の梅を探し求めて出かけることを 探梅 と

いうのだそうですね。

寒さの中を、これは探梅にいい機会だとばかりに

やってきたのは向島の百花園でございます。

老人は入園料半額とあって、暇な老人がいるかと思いきや

園内はガランとして百花園とは名ばかりの枯れ草色で

染まっているのですよ。

(ハクチョウゲ)

日差しはあっても今はまさに寒中の真っ只中、枯れ草色が

寒さを募らせますな、

俄かに吹き出した北風はまるで氷の中から直接吹き付けてくるような

冷たさに、東屋が緊急避難所に早変わりでございます。

「狐の嫁入りでもあればまたこの景色も生きるだろうに・・・」

日差しより寒風が勝る陽気、コートの襟を立てて悴んだ手の指に

息を吹きかけてみる。、

「やっぱり無理だったかな」

(ハコネウツギ)

それでも気を取り直して、

庭内を歩き出す、みつまたの蕾はまだ硬く、あのいつもの翁草は

まったくその姿も見せてくれやしない、

普段なら咲き始めた梅の花に気を取られて、枯草には目もくれない

のですよ、こう何も花がないと、その枯草をじっと見つめるだけ

その時、雲間から差し込んだ冬の日差しが朽ちかけた葉を浮き

上がらせて居るじゃないですか、

なんという美しさだろうか。

(ミツバアケビ)

枯れた葉にこんなに惹きつけられるのは、年老いた心が

見つけたためだろうか、昔なら枯草になんて目もくれなかった

ですものね。

ハコネウツギの葉、カジイチゴの病葉、ミツバアケビの葉の

なんという麗しさ、このまま胸元飾ったら素敵なブローチに

なるかも・・・

(カジイチゴ)

数ある梅の木もまだ蕾が固く閉じたまま冬の陽を浴びている、

そんな中に、けなげに咲いた梅一輪、

早咲きの唐梅である、

 「梅一輪一輪ほどの暖かさ」  服部嵐雪

多分、嵐雪は極寒の寒さの中でこの句を詠んだに違いない

などと、指先に息を吹きかけながらシャッターを押す。

(唐梅)

春の花である椿がこの寒さに蕾のまま耐えている、

冬の椿には健気さが漂っておりますな、

  枯れ庭にじっと耐えたる寒椿  散人

どんな美人に例えていたのでしょうかね、

(カンツバキ)

先日房総の山郷の一面に咲く水仙を見てきたばかりですが

こうして、枯れ庭に咲く一叢の水仙のうなだれたような風情も

またいいものですよ。

そういえば、ギリシャ神話にある牧童ナルシスは水面に映る自らの

美貌に見とれて水仙の花になったという話がありますが、

アタシじゃいくら見とれてもナルシストには成れそうもありませんやね。

(スイセン)

寒中の探梅も寒さには耐えられなくなりました、

そろそろ戻るといたしますか、

出口の棚に鉢植えの福寿草、

 「福寿草影三寸の日向かな」  正岡子規

どうやら、空は俄かに曇り始めている、

陽が差せば開き、曇ると閉じるという福寿草は

まさに寒中の花、よく蕗の薹と間違えて中毒を起こす人がいる、

間違ってもてんぷらにして食したりしないでくださいよ、

可憐な姿には毒があるのですからね。

(フクジュソウ)