2011年3月11日東日本大震災から四ヶ月、何時の間にか

二つ目の季節を迎えています。

伝統を守り、先人達から受け継いできたモノを大切に

してきた町佐原は、いつでもその美しい景観を見せてくれていた

その鰆の町も大震災は容赦なく襲い掛かっていたのです、

蔵造りの大屋根からどれほど多くの瓦が落下したのでしょうか、

あちこちの屋根にはブルーのシートが掛けられている。

歩きなれた町の路地を巡ってみると、

目に焼きついている美しい家並みが記憶の中から蘇ってくる、

涙が止まらなくなってしまった。

「おい、寄ってけよ」

亀村の爺ちゃんが声を掛けてくれた、

「怪我はなかったのかい、婆ちゃんは・・・」

「ああ、何とか助かったよ、ひでぇーもんだよ」

「おれんとこは何とか屋根は持ちこたえたんだ、でも

 家紋が落っこちまってな、それを作ってるところさ」

爺ちゃんは永年鍛えた腕の冴えで、何でも自分で作ってしまう、

竹で作った干支の寅や兎は、ユーモアの溢れたその姿が

私は大好きなんですよ。

小さな鏝で屋根の上にかざす家紋を作る作業は、

見ていて飽きることがないのですよ、

「漆喰って原料は何なの・・・」

すると爺ちゃんは目に微笑を浮かべ、

「そりゃ、職人によっていろいろさ、秘密ってヤツだな」

それでも、お前さんはやらないだろうかからと内緒で

教えてくれました、これは男同士の約束なので秘密です、

でも、漆喰って生き物なんだということだけはよくわかりましたよ。

出来上がった家紋を持って、今度は蔵の二階の屋根に登るのです、

「大丈夫か・・・」

「替わりにやってくれる者が居なけりゃやるしかないだろうよ」

足場に結びつけた綱を握り締めると、爺ちゃんは

ゆっくりとゆっくりと登っていく。

「まだ、時間はいくらか残されているからな」

見上げた屋根の上に抜けるような青空、

「爺ちゃん、屋根に被せたブルーシートが青空みたいに見えるよ」

「そうだな、こりゃ、青空の落し物かもしれねーよ」

と笑った。

「もうまもなく夏祭りだけど、今年はやるのかい」

多分答えはわかっていたけれど聞いてみた。

「ああ、やるよ」

何をバカなこと聞くのかという顔の答えが返ってきた、

そうだよね、大雨が降ろうが、大風が吹こうが

三百年も続けてきた祭りだもね、

「八坂神社へお参り行ってくるよ」

「そうしな、無事に祭りができるように頼んできてな」

まだ誰もいない境内に露店だけは用意万端整っておりますよ、

スサノウノミコトに手を合わせる。

帰りに小野川の辺で兄妹に出会う、

「おじさん、もうすぐお祭りだよ」

そうだよね、10年後、いや30年後、この子たちが大人になった時、

「あの大地震の時だって祭りはやったんだよ」

って胸をはることが出来るさ、

それが佐原の誇りなんだからね。

「復興祈願」

心を重ね、今こそ示そう

 江戸優り佐原の誇り

佐原の大祭のポスターにはそう記されておりました。

そして、

「佐原の街並みは復活します」と。

佐原は観光の町、皆が訪ねることが復興の一助になるのなら、

諦めずに通い続けますよ。

小野川の川面を あの佐原囃子が聞こえて気がした旅の途中のこと

この記事は2011年7月11日佐原にて記したものです。