先ほどまでは、こちらはじっと祭り支度を見つめる

ばかりでした。

いよいよ山車が町内を曳き回されます、

今回も以前お世話になった志ん二町会さんの山車に

ついていこうと思います。

山車の中にお囃子連が乗り込みました、

笛、摺り鉦、ツケ(小太鼓二人)、タマ(大太鼓)の五人囃子、

歯切れのいい江戸囃子が響き始めます、

(志ん二町会の神武天皇)

車輪は四輪とも固定されており、車輪の角度を

変えることはできないようです、

佐原の祭りでは のの字廻しといって、力任せに

引きづる様に無理やり方向を変えるのですが、

果たして久喜の山車はどうするのでしょうか、

動き出して最初の十字路でその作業が始りました、

山車の先頭には指揮する役員が手に提灯、口に笛で

そのタイミングを見ながら確実に指示を与えるのです。

山車には とんぼと呼ばれるかじ棒が据えつけられて

おりますが、四つの車輪とは連動してないのです、

指揮者の笛の合図とともに、数人の若衆がかじ棒を力任せに

押しつけるように回転させるのですね。

その際に、竹の平板を車輪の下に差し込んで滑りやすくしています。

全て阿吽の呼吸によって作業が続けられるというわけですな、

もう一つ指揮者の大事な作業は、何しろ高さが8m近くになる山車

は左右だけでなく上に張り巡らされた電線を除けなければ

ならないのです、

前後左右に上下への目配せをしながら確実な指図を与える

山車指揮者には気の休まる暇もありませんですな。

山車が町内の境界線まで行き着くと、戻るためにそのまま

大回転を行うのか固唾を呑んで待っていると、

なんと、山車の上部だけを回転させることが出来る構造に

なっているのです。

進行中は動かないように上下の間にくさびが打ち込まれて

いるので、そのくさびをはずすと山車の上の部分がぐるりと

回転して方向が変わるという寸法なんですな、

なるほどとんぼ(かじ棒)は前後ろにあってどちらからも

出来るようになっていたのです。

さらに山車が速過ぎたり、止めるためにはブレーキが必要に

なるわけで、

地面と後輪の間に鉄板をいれ、後輪の回転を止め、山車を

止めるのです、

細かく観察してみると、数々の工夫と知恵が盛り込まれて

いるのですね、

これも数百年続けてきた中で、改良されてきたものなんですね、

だからと言って、動力を導入することは頑なに拒み続けるのも

また祭りが人間の手作業だけで行うことの意味をしっかり守って

いることの証なのでしょうね。

「大勢の人が力を合わせることで何かを成し遂げること」

祭りとは 現代の個人主義の行き着いた先に残された唯一の

行動様式のように思われた祭り行脚の途中でございます。

宵闇の中での提灯が揺れる様はそれはそれは美しいものですが

そちらはもう何度も拝見しておりますのでこのあたりで

帰るといたしますかね。

(2016年7月記す)