「雨が降るかもしれない」 という天気予報に

「深川のまつりは土砂降りの雨など裸足で逃げ出すほどの

水巻きまつりだもの天気は関係ないよ」

なんて強がり言うオヤジさんたちもこれ以上ない夏の陽射しが

降り注ぐ空を見上げて思わずガッツポーズを決めた。

大幟が風になびき、いよいよ神輿連合渡御が始まりますよ。

さて、このまつり、神輿に水を巻く事ばかりが脚光を浴びて

しまうのですが、このまつりにかける氏子の皆さんの心意気は

それだけではありませんでね、

何しろ氏子町内が七十以上もある大所帯、その町内には腕に縒りを

かけたお神酒所と神輿のための御仮屋が設えられるのです、

このお神酒所と御仮屋を訪ねるのもまつりの楽しみでしてね、

今年は、宵宮には冬木町会をお訪ねして昔話をお聞きする、

この辺りは昔から材木商が軒を連ねた土地、豪商冬木屋の

屋号から町内の名が今に引き継がれているとのこと。

神輿は行徳の浅子周慶作、三尺のかなり大きな神輿に思わず

見とれてしまいますよ。

そういえば、行徳にあった三軒の神輿屋も、後藤神輿店、浅子神輿店の

二軒が止めてしまったため、深川に残る神輿は貴重な彼らの作品になって

しまいました。

さて神幸祭の日は「深川二北」町会へ、なぜ此処を選んだかというと

母親の爺ちゃんのお墓がこの町内のお寺さんにありましてね、

お盆の墓参りを済ませてまつりへ顔を突っ込むという相変わらずの

まつり狂いでございますよ。

こちらの神輿、「鳳凰の目はダイヤモンドなんだぞ」と

密かに教えていただき改めて見上げると 鳳凰の瞳が キラリ!

さて、毎年訪ねるのは宮元町会、

あれ、いつもの場所に見慣れぬ建物

「あの建物は何なの・・・」

「よくわからないのだよ、噂じゃ天皇皇后両陛下がいらっしゃるらしいよ」

「へーっ、それじゃ天覧まつりに格が上がるじゃないか」

なんて噂話が喧々諤々、それが本日本当になったのですから

びっくりしましたよ。

さて、張り出された神輿渡御番付表に順番が記されておりましてね、

おう、一番は深川で一番デカイ深濱の神輿、きっと張り切るでしょうね、

宮元神輿は三十四番、深川二北は五十番、冬木は五十二番、

総勢54基の神輿渡御の始り、始り!!

アタシが訪ねた町内神輿はどうやら後半に集中、

そうだ今の内に腹こしらえしておかなきゃね。

この炎天下、全部の神輿を待ってたら、

爺は暑さでひっくり返りますぜ。

巴美会のお囃子が響き渡る中、次々に神輿がやってきます。

先導役は各町内の娘さん、金棒をシャンシャンと鳴らしながら

少し顔が緊張、その後ろからは元娘さんの女将さんの一団が

堂々の行進、来ました、来ました ずぶ濡れの神輿集団、

「ワッショイ!ワッショイ!」

掛け声にやけくその気配が・・・

そんな神輿担ぎの心情は関係無しに、豪快な水掛けが始まった。

水の量が半端じゃないと思っていたら、どうやら消防ホースまで

用意してある周到さ、

「ザブン!、ザブン!」とまるで瀧のような凄まじさ、

見ていた浴衣のカップルが飛んだトバッチリ、

せっかくめかした浴衣姿もずぶ濡れに、男の子は半べそ、

ところがどっこい、娘さんは、一度濡れてしまえば後は野となれ山となれ、

その場のバケツを借りて、今度は水掛け側に豹変、

見物人からヤンヤの喝采を浴びておりましたよ。

宮元神輿に拍手を送り、

深川二北の神輿に喝采を送り、

冬木町神輿に歓声をあげる、

地元 葵太鼓の音が神輿を迎えてくれる、

「ドーン!ドーン!ドーン!」

大太鼓がハラワタに染みますよ。

いよいよ最後(トリ)は下木場神輿、戦後焼けてしまった

神輿を最初に復興させたという心意気が夏の大空へ

羽ばたいていた。

神社の前では、

富岡長子宮司、神輿総代連合会 高橋会長が出迎えて

無事神輿渡御が終わった。

(平成12年8月本祭りにて)