一年一度の逢瀬というとなんだか艶かしい気分になるのですが、

今年も一年待った舞台の幕が上がった。

追っかけをやっているのではない、じっと待つことの楽しみを

これほど味あわせてくれることはそう滅多にないと思わせて

くれる、それが 阿波踊りグループ『虹』の舞い姿なのです。

舞台はあの月明かりの下の宵闇の中から始まった。

一人の女(ひと)の爪弾く三味線の音が流れている、

どうやら此処は阿波の鷹匠町、

繁華街の路地裏で密かに踊り続けている

「一丁回り」を「虹」の代表・四宮賀代さんは

二十年続けている。

「一丁回り」は通行人や見物人まで巻き込んで

踊りの列が出来るのだと聞いていた。

しかし、その「一丁回り」を見るためにだけで

徳島を訪ねるにはあまりに遠く、

今は想像するだけの幻の踊りになっていたのです。

その「一丁回り」が目の前に現れたのです。

三味線の音色に、自然に踊りだす人、

見物人が背広姿で、外国人が金髪をなびかせて踊りだす、

そこには、あの阿波踊りの華やかさはない、

あまりにもショー化してしまった現在の阿波踊りに、

こういうやり方があってもいいと思わせるだけの

踊りが夕闇の中に揺れている。

踊りたい と思った子供は、あまりにも敷居が高くなった

今の阿波踊りには躊躇してしまうでしょう、

限られた人だけが楽しむのが阿波踊りではない と思うのは

私だけではなかったのですね、

プロの卓越した技能に裏づけされた踊りはもちろんあっていい、

賢明に稽古を続けてハレの日の阿波踊りに笑顔で踊る姿もいい、

そして、路地裏で踊りたいという気持ちを素直に表せる場所が

あったらもっといい。

阿波踊りグループ『虹』は、その原点のような「一丁回り」を

今でも大切にするために踊り続けていたんですね。

なんだか、昔越中八尾の人の居なくなった路地裏で、そっと

踊り始めた おわらの踊りを思い出しておりましたよ。

三人の踊りが最高潮に達したとき、

下駄の音が ピタリと止んだ。

ああ、これが「一丁回り」だったのか・・・

待っていた一年間は、闇の向こうへ消えていく後姿に

凝縮されて溶けていった。

舞台に漂っていたのは 余韻 だった、

こうして、また来年まで待つことの日々が続くのだろう

彼女が何を運んで来てくれるのかを確かめるために・・・

(平成13年8月南越谷阿波踊り にて)