江戸の名物といえば、

 伊勢屋、稲荷に犬の糞 なんていわれるほど

江戸の町ではお稲荷さんが彼方此方に目をひいて

いたそうじゃないですかね、

そのお稲荷さんに手を合わせるとかならずこっちを

向いているのがお狐さん、

(三囲稲荷神社のお狐さん)

鋭い眼光で睨み付けてくる飛木稲荷のお狐様がいれば

三囲稲荷の目尻の下がった柔和な顔のお狐さんがいたりと、

さすがに数が多いだけにお狐様の表情を見ているだけで

楽しいものですが、

「これじゃ狸の立つ瀬がないだろうに」

なんて狸に代わってブツブツいいながら

いつもの浅草夕暮れ散歩に出てみると

誰かが袖を引っ張るじゃありませんか、

足を踏み込んだのは 

伝法院の片隅にある「鎮護堂」、

そうか浅草にも狸を祀っている社がありましたっけ、

こちらの狸が浅草にやってきたのはそんなに

古いことじゃありませんでね、

慶応四年、彰義隊と薩長連合軍が上野の御山で

大騒動を起こしたじゃないですか、

あの時一番迷惑を蒙ったのが御山で静に暮らしていた

狸たちなんですよ、

いきなり人間どもが、ドンパチ始め、

そのうち大砲までぶっ放すありまさに

狸たちも、

「こりゃたまらん」

と上野から浅草の奥山に逃げ込んできたんですな。

その狸、人を化かすのは狐に負けちゃおりませんで、

浅草寺の偉いお坊さんの夢の中に現れて、

「あたしらを静に住まわせてくれたら、

伝法院を火災から守りますよ」

と約束したんだとか。

明治16年、境内に住んでいた狸たちを

鎮護大使者として祀ったのが今ある

「鎮護堂」なんだとか、

その鎮護堂にある御神木の公孫樹がちょうど黄葉の

見頃を迎えておりましたので、

お狸様に手を合わせて、カラカラ天気から火災を起こさぬように

お願いいたしましたよ。

浅草っ子は何でも洒落にするのが生きがいなんですよね、

お狸さまは「他を抜く」ってんで、

今じゃ落語家や歌舞伎役者がお参りにやってくるのだとか。

アタシはあまり争いことは好まないので、

他に抜かれて も気にしませんがね、

まあ、今日ものんびり我が道を行きますかね。

「もしもし旦那さん、

 狐と狸ばかり贔屓にしないでくださいよ、

 アタシらも頑張ってるんですから・・・」

そうだったな、招き猫のお前達も浅草がふるさとだったな、

よしよし 贔屓にするからな。

浅草の名物とは きつね たぬきに 招き猫 ってか