「ねえ、わたしのこと好きなの、嫌いなの・・・」

なんていきなり迫ってこられても、困りますよね、

「そりゃ、好きなところもあるけど、嫌いなところもあるよ」

なんて応えようものなら、やれ、優柔不断だの、男らしくない

などと、普段は男女同権だなんて声高に叫んでいた舌の根も

乾かぬ内にノタマウのが女人様というものでございますよ。

まあ、世の中には、真偽とか、善悪とか、苦楽、美醜、生死

なんていう正反対の言葉が氾濫しているので

白か黒かどちらかに決めないと気が治まらないのでありますよ。

若い頃は、どちらかに決めることこそ正義だ、なんて想って

いたのですが、歳を重ねてくるとその中間の灰色だって

あるじゃないか、なんてことが判ってくるものでしてね、

そのうち、右か左かとか、好きか嫌いかなんて、どちらでも大して

生きるためには変わりないことが尚はっきり見えてくるものでしてね、

その両方の極端なことを忘れてしまいなさいということを

『両 忘』と言うのだと教えてくれたのは、確か中国の人々じゃ

なかったですかね。

『内外両忘』『善悪両忘』

すぐ隣の国同士が、意地を張って怒鳴り合いしてる現状を

きっと、両国の古人たちは、ニヤニヤしながら笑っているでしょうね。

ことの善悪など誰も的確に判断を出来るわけも無いのですから、

曖昧なままお互いに受け入れて、毎日を精一杯楽しく生きることは

出来ませんかね、肩の力を抜いてさ、穏やかに生きてみたら

案外、清々しい気持ちになれそうな気がするのですがね。

隣同士の国も、ご近所も、はたまた電車の中で偶然隣り合わせた人々も

「オレの方が正しい、謝れ!」なんて青筋立てているうちに

年取って目は空ろになり、足腰はフラフラになって、

そのうち、記憶さえもあやふやになるのですからね。

それが、オレは正しいと想っていた人の成れの果て、

たいして、差がないのが人間の一生ですよ。

此の秋一番の冷え込み、海を渡ってきた風に

思わずブルルと身体が反応した夕暮れ散歩の途中です。

ほら、柳は風に逆らわないじゃないですかね・・・

かもめはことの善悪をしゃべりまくっているのでしょうか・・・

『両 忘』を肝に命じてのんびり生きましょうよ。