溜まっていた仕事を片付けて、窓の外を見ると

もう夜の帳が覆い始めている、

「随分夕暮れが早くなったな・・・」

一日中机に向かっていたのでさすがに腰が痛い、

肩は張ってるし、目も霞んでいる、

やれやれ歳をとると無理が利かなくなるものかな、

さて、ふらりと町歩きにでも行くか、

とぶつぶつ独り言をつぶやきながら気が付くと

やっぱり人のぬくもりの感じられる町を歩いている。

呑兵衛仲間のグループだろうか、小さな駅前でこれから

何処へ呑みにいくか喧々諤々、しかしすぐに意見は一致

したらしい、それはそうだ、みんな呑みたい一心で集まって

いるのだからね、アタシみたいに

「あんみつがいい」

なんて言い出すヤツは呑兵衛にはいないもの、

一滴も呑まないアタシでもね、此の町を歩いていると

なんだかいい気持になれるんですよ、

此の町には銀座、赤坂、六本木みたいに洒落た店はありませんよ、

横丁を歩いてると、煮込みやホルモン焼きの匂いが

漂っているのですよ、

先ほどの一団も、暖簾かき分けていつの間にか納まるところに

もぐりこんだらしい、

年季の入った呑兵衛になると、そこらの駆け出し若造とは

一味も、ふた味も違いましてね、

コップにナミナミ注いでもらった酒を グビり!

一気呑みなんて下品な呑み方はしやしませんよ、

あんなに大勢で呑んでるのに実に静かでね、

そう、ここは純粋に酒の好きな輩が、集まる町なんですね、

酒を呑まない、いや、呑めないお前さんには縁のない町だろう

っておっしゃるんですか、酒は呑まなくたってね、

旨くて安い焼き鳥はあるし、ほら、たこ焼きだって湯気を

立てておりますよ。

アタシはね、酒は呑めないけど、酒呑みは好きなんですよ、

此の町に集まってくる輩はみんなあったかくてね、

見てないようでちゃんと見ててくれてるんですよ、

だからみんな安心して夕暮れになると集まってくるのさ。