事務所の窓越しに青空が見えた、

「いい天気だな!」

こんな日に仕事とは因果な商売だよ、

だいたい浅草に仕事場なんか作るから身が入らないのですよ、

「ちょいと昼飯に出かけるよ」

何しろ一歩出ればそこは浅草、お祭りの町てんですから

 仕事なんかやってられるか 

なんて勢いがつこうというものですよ、

ちょいと昼飯ったってね、この町じゃ、

鰻、天ぷら、トンカツに洋食、

お好み焼きに蕎麦、うどん、

無いものはありませんよ、

よりどりみどりでうろつけば、

最近出来たインド料理の店長と眼が合っちまいましてね、

「シャッチョウサン オヒルハココヨ」

旨くなったのはお世辞と片言の日本語、

まさか、眼が合っちまったら素通りできないじゃないのさ、

「カラサハダイジョウブ?」

一生懸命客の好みに合わせようと質問が飛ぶ、

「そうだな、少し辛めにしてくれるかい」

「スコシカラメ ワカラナイ」

紙に書いた唐辛子の数を指差して、

1辛、2辛、3辛、5辛、後はいくらでも辛く出来るとか、

別に我慢比べするわけじゃないから、3辛 を注文、

けっこう日本人の舌に合わせてこれが旨いのでありますよ

しかし、これが後になるとじわじわと利いてきて、

額から汗を垂らしながら完食、

寒風吹きすさぶ表も何のその、ちょいとついでに

いつもの食後の散歩といきますか、

いけない、観音様と仁王様には今年のご挨拶は

済んでおりましたが、雷様がまだだったんですよ、

「うわっ!眼が怒ってますよ、

なにとぞ今年も緩やかなお天気をお願いいたします」

さてと、腹も納まったし、お参りも済ませれば、

後は気の向くままの毎度のいい加減散歩でございますよ、

「おっ!、申から酉に代ったね」

「やっぱり浅草は和服がいいね」

そしたら、その和服の御姐さんが振り向きざま

流し目で微笑んだのでございますよ、

年甲斐も無く、こっちはおどおどしちまってね、

ついその後ろからついていっちまったのですよ、

路地を曲がると、ぴたりと人通りは消えて・・・

「あの、まだ真昼間だよ」

「あれ、イヤですよ、お忘れですか」

そう云われて、頭の中では記憶のワッカがぐるぐる、グルグル

えーと、お仙ちゃんじゃなかったな、

夢千代は足洗ったはずだし、

なんてブツブツ云ってると、

「よう、散ちゃん、そんな薄暗いところで

 ションベンなんかするんじゃないぞ」

あーあっ、源さんの声じゃないですか、

「夢じゃ、夢じゃ、白日夢じゃ・・・」

昼間からそんないいことあるわきゃないものな。

(2017年の2月はまだ仕事しておりましたな、
 今は待望の隠居生活を満喫!!)