「夕ぐれに ながめ見わたす すみだ河

  つきにふぜいの まつちやま

  ほあげたふねが 見ゆるぞえ

  あれ鳥が鳴く とりの名の

  みやこに名所があるわいな」

小唄の師匠だったオフクロがよく口ずさんでいた唄を

唄いながらいつもの通り浅草参りでございます。

くわんのんさまに手を合わせひょいと見れば

三連休も終わった平日だというのにものすごい人の波、

婆さまが

「今日はなんの祭りかね」

と尋ねてくる、

「祭りじゃないですよ、浅草は毎日がこんなもんなんです」

と鼻の穴を膨らませて応えてみましたが、

秋は修学旅行生と外国からの観光客がかち合って

あの婆さまじゃなくたって何かの祭りかと想っても

不思議じゃありませんよ。

これが当たり前だと思い込んでいると、昔、浅草から

人が居なくなったことを想い出しましてね、

人気なんてものは秋の空と同じで移ろいやすいモノの代表でしたっけ。

やけに若い人のきもの姿が目につきますな、

日本人もいよいよ日本文化を見直し始めたか と

写真を写している着物姿の娘さんに声を掛けると

まったく言葉が通じないじゃないですか、

通訳の人に訪ねたら、中国からの若い人たちの間では、

日本のきものを着て浅草を歩くのがブームなんだとか、

きもののレンタル、それにきちんと着付けもしてくれる店が

大繁盛なんだとか、

日本人の若者が欧州やアメリカのファッションにうつつを抜かして

いるうちに

御膝元のきもの文化は中国の人に奪われそうな勢いじゃないですか。

そのうち、花魁姿まで持っていかれそうですよ。

そういえば、浮世絵の良さを再認識したの西洋の人々でしたっけ、

東洋人なら、きもの姿にまったく違和感を感じないですな、

彼らが着物姿を身近に感じてもおかしくないですものね。

そこで

「おまへと一生暮らすなら

 深山のおくのわびすまい

 柴刈る手わざ糸車

 細谷川の布さらし

 ぬい針し事 いとやせん」

などと、江戸端唄をちょいと唄ってみましたが、こちらはまったく

通じませんでした。

ほっとするやら、いや、もしかしたら、日本の文化の奥深さまで

理解する東洋人が居ないわきゃないだろう などと妙な心配する

浅草は秋日和でございます。

東京オリンピックの頃は外国人のお客さんがきもの姿で、日本人が

TシャツにGパン姿で迎えることになっていたら・・・

(2018年11月 浅草にて)