今年は元旦から武州鷲宮神社に参拝し、このところすっかり

惹き込まれている里神楽から一年が始まりました。

関東の神楽は江戸里神楽と呼ばれ、笛、大拍子、長胴太鼓の

三名による神楽囃子にのって、古事記、日本書紀の神話を演じる

仮面無言劇の形態をとる神楽で、どちらかというとゆったりとした舞いと、

能や狂言を思わせる舞台が多く、

御潔三箇男神、菩比の上使、天孫降臨などの神話を題材にした神楽や

稲荷山、神明種蒔など五穀豊穣を願う演目などが、祭りの奉納神楽と

して行われているのです。

最近、YouTubeで里神楽を楽しんでおりましたが、石見神楽の演目を

見つけクリックしてもうビックリ、

昔、出雲大社に参拝した折に、神楽殿で大蛇(おろち)を見て以来

でしたのでその石見神楽の八調子の早いテンポと絢爛豪華な衣装で

くるくると廻りながらの演舞に目が点になってしまいましてね。

それからは事在るごとに石見神楽を見つけては楽しむ日々が続いて

いたのです。

奏楽は、大太鼓・締太鼓・銅拍子(手打鉦)・横笛の四人の奏者が

時にはロックを思わせる激しさで太鼓を打ちならし、

時には神楽歌を唄い、掛け声まで飛び出すのですよ。

江戸里神楽に慣れ親しんでいた身には、青天の霹靂 とでいうような

衝撃でしたね。

勿論その題材は神話に求めることが多いのです、

岩戸(いわと)、大蛇(おろち)、鹿島(かしま)などは

知られておりますが、

源頼光・渡辺綱・坂田金時・酒呑童子・茨木童子などが登場する

大江山(おおえやま)、

菅原道真が死後天神となり、随身を従え時平を成敗するという

天神(てんじん)、

平将門の娘とされる伝説上の妖術使い五月姫が大活躍する 

滝夜叉姫(たきやしゃひめ)

などひとつの演目が40から60分ほどの時間の中で演じられる

のですから、退屈する暇など全くありませんですよ。

この石見神楽は昔は神職が演じていたのですが、現在は保存会の

団体が各地に起こり、

島根、広島だけでも百団体以上が演舞を競い合っているらしいのです。

いつか、石見神楽を目の前で観てみたいと願っておりましたところ、

今年は江津市の神楽団が東京ドームにやってくると聞き、飛んでまいりました。

この広いドームで演じられる演目は予想通り「大蛇(おろち)」でしたね。

すじがきは

 「悪業のため高天原を追われた須佐之男命が出雲の国・斐川にさしかかると

 脚摩乳(あしなづち)・手摩乳(てなづち)老夫婦が嘆き悲しんでいる、

 訳を尋ねると、夫婦に は八人の娘がいたが、大蛇が毎年あらわれて、

 七年に七人の娘をとられ、

 最後の一人奇稲田姫(くしいなだひめ)も取られてしまうと嘆き悲しんで

 いるのです。

 須佐之男命は奇稲田姫を妻にすることを約束したうえでその大蛇を退治

 すると申された。

 奇稲田姫が見つからないように櫛に変えて自らの髪に挿すと七回醸し直した

 酒を用意するように脚摩乳に命じるのです、そして大蛇の現れるのを待つ、

 再び現れた大蛇は用意された強い酒を飲み干すと酔って眠ってしまう。

 そこに現れた須佐之男命は腰に下げていた十握の剣(とつかのつるぎ)で

 八岐大蛇を切り刻んでしまう。

 その尾を割いてみると、中から一つの剣が出て来た。これが天の村雲の剣

 あまりに素晴らしい剣なので天照皇大神に献上され現在も三種の神器の一つ

 となっているのです。

 奇稲田姫を妻に娶った須佐之男命は出雲の須賀の地に宮を建て奇稲田姫と

 夫婦の交わりをし、生まれたのが大己貴神(おおあなむちのかみ)という

 お話です。」

昨年も秋 堀切氷川神社奉納里神楽『大蛇退治』を観る機会がありましたが、

あの時は大蛇は一頭だけでしたが、目の前に現れたのは八頭の大蛇、

いやいやその迫力にはびっくり仰天、とぐろを巻き、ある時は絡み合い、

まさに八頭大蛇そのものではないですかね。

勿論、今回は短縮番ですが、須佐之男命が独りで八頭の大蛇を次々に

成敗していく様はいくら勧善懲悪とはいえ、なかなか無残でありましたな。

それに、酒を散々飲ませてのだまし討ちは、坂東武士将門贔屓の関東人には

逆に大蛇に同情してしまいましたよ。

江戸里神楽が静なら、まさに石見神楽は動の極地でありました。

次はぜひとも石見の地を訪ねて、あの賢覧豪華な衣装で舞い踊る

本気の石見神楽を観てみたいものですな。

(2018年1月 記す)