常陸野に座す神々は海からこの地にやってこられた

伝承をもつといいます。

鹿島の一之宮の大神さまはもとより

二之宮の静神社の織物の神さま

大洗と磯崎に鎮座される二神さま

皆様そろって海からやってこられたのです。

日立の浜に上がられた神さまは

金砂郷の山の中に鎮座され、今も72年に一度

海まで戻られる神事が行われているのです。

常陸の海は神の海

古人は神の海に何を見つめていたのでしょうか、

流れる雲に茜色の光が差し始める

耳を澄ませると、海鳴りが微かに聞こえてくる

通り過ぎる風がまるで神の足跡のように

さざめいて消えた

「ああ、神がこられた!」

きっと古人たちはそう叫び声をあげたのだろう。

農耕に携わる人々は、収穫のあらんことを神に祈る、

海に糧を求める人々は、命を賭して神の座す海へと

船を漕ぎ出していく、

網に掛かる魚はすべて神からの授かりモノと思うのは

至極当たり前の考え方なのだと、この地に佇んだ者は

きっと感じることが出来るでしょう。

何千年にも渡って繰り広げられた海の幸への感謝の祈りは

平成という時代を迎えても変わることなく続けられている。

新鮮が命だという海の幸を幸運にも口にすることが出来るという、

教えられた一軒の寿司家の店主は

黙々と寿司を握ると目の前に海の宝物をそっとそろえてくれた。

きっとこれが神の授けし命のざわめき

何度も頷く旅人へ店主は目だけで微笑んでくれた。

(2018年如月)