東京から粋な町というのがだんだん消えていくのは

寂しいものですね、

毎日浅草でうろうろしているとあまり感じないのですが、

江戸時代から続いていた柳橋は、今や問屋の町に成り果て、

料亭も次々に閉められ、とうとう見番も解散、芸者衆も

散りじりになってしまいました。

時代というのは、動き始めるともう誰も止めることが

できないのですね。

新橋、赤坂ももうビルの中に沈められ、とても粋な町の雰囲気は

見つけられませんですよ。

なにしろ若い時から親父の薫陶よろしく、料亭に出入りしていた身には

もう涙もでませんですな。

浅草、向島はかろうじて頑張っておりますが、今東京で粋な町といったら

神楽坂が気を吐いているだけかもしれませんね。

何しろ、坂のある町というのはそれだけで、ぐっと雰囲気が盛り上がる

でしょ、通りから一歩横道へ入ると、石畳の路地が密やかに続いていたりして

とても東京の真ん中とは思えない場所がかろうじて残されているのは

嬉しいですね。

実は、料亭遊びを教えてもらったのはここ神楽坂の路地の奥の料亭だったんですよ、

もうはるか昔のことですがね。

さて、最近は、もっぱらおいしい食事処が目白押しの神楽坂、若い人たちに

人気スポットとして再び脚光を浴びだしたのは、此の町独特の粋な雰囲気に

若者たちが敏感に反応しているからですかね、そうならうれしいですね、

この界隈は昔から出版社や印刷会社が近くにあり、何かと会議といっては

この神楽坂に集まったものでしたから、きっと洒落た飲食店が集まって

いるのですよ。

さて、その粋な坂の町で毎年夏のまつりが続いておりましてね、

いつもはこの坂道を登ってくる 阿波踊りの集団を見るために

通い続けているのですが、今年は、その阿波踊りに先駆けて 

ほうずき市も開かれていると聞いて、さっそくやってまいりました。

浅草のほうずき市ほど大規模ではありませんが、毘沙門天前の路には

葦張の店が並び大盛況ですよ、

それにしてもすごい人波で歩くこともままならないのです、

そのほとんどが若い人ですからその熱気も半端ではなく

人波に揉まれているだけで大汗をかいておりますよ。

集まってきた若者達の中にやけに浴衣姿が目立ちます、

どうやら仕掛けがあるらしく、浴衣で店に入ると割引してもらえる

らしく粋な町もいろいろ知恵を絞っておりますよ。

やっとのことで毘沙門天の境内にたどり着き参拝をすませると

境内に設えられた舞台から最近気になっているお囃子が聞こえて

まいります。

なんと石見神楽ではないですか、

江戸里神楽には足しげく通っておりますが、石見神楽は東京からは

あまりに遠くてなかなかこの目で、この耳で確かめることが

出来ないでいたのです。

大太鼓、小太鼓、手拍子、笛を用いての囃子は江戸里神楽とは対極に

あるようなリズミカルで軽快さがじかに体に伝わってくるのです。

アタシもYou Tubeで最初に見たときは度肝を抜かれたくらいの

衝撃でしたね。

金糸・銀糸の豪華絢爛な衣裳で舞う姿、さらに花火や煙幕が焚かれたりと

江戸里神楽を見慣れた目には驚くことばかりなんですね。

今回、神楽坂の舞台に上がったのは、「恵比寿」

漁業、商業の祖神として崇拝されている八重事代主命(恵比須の大神)の

鯛釣りの様子を舞ったものらしく鯛を釣り上げ寿福を顕すという

大変おめでたい演目で舞台の上から蒔きものまであって観客から

大うけでありました。

次の演目も見たかったのですが、なにしろ凄い人波に恐れをなして

退散いたしましたよ。

石見神楽のほんの一部を見せていただいたのですが、

いよいよ本場の石見神楽を見に行きたくなりました。

島根県浜田市で行われる石見神楽は秋祭りに演じられるとのこと

今から計画を練ってみましょうかね。

(2016年7月記す)