「ウソをつくと閻魔様に舌を抜かれるぞ」

アタシ等の子供の頃は、こんな怖い話は他にないわけで

「エンマさんはウソついた子の舌を

 ペンチで抜くんだってよ」

ガキ大将のK太がしたり顔で話すのを悪ガキ共は

震えながら聞いていたんですよ。

エンマ様を見たことのない悪ガキ共は、

ある日近所のお寺さんにエンマさんが

居るというのでみんなで探検に行ったんです。

そーっと開けた戸の隙間から、

こっちを睨んでいるエンマさんと目が合ったとき、

「ワーッ!」

と叫び声をあげて逃げ帰った少年時代のあのころが

蘇ったのです。

梅の香りの中をのんびりと歩いていた目の前に

あのエンマ様が・・・

思わず後ずさりしている仕草を見ていたオヤジさんが

「中々いい顔してるでしょ」

と笑いながら話しかけてきた。

「いやいや、子供達には怖いでしょうね」

なんだか自分が子供にかえってしまったような気分でそう答えた。

「このお寺さんは相当古いのですか」

「何でも、江戸時代の前からあったらしいよ」

すると、甲斐の武田信玄の再三の攻撃を凌いだという

箕郷の城主だった長野一族の菩提寺なのでしょうか。

本堂で手を合わせた後、境内の梅の香りが奥へとさそう。

不動堂の横に、簔輪城家臣団の五輪塔が苔むしていた。

壮絶な戦が歴史書の中のことではなかったことを思い知らされる。

どんな若者だったのだろう、

妻や子もあっただろうか、

五輪塔のひとつひとつに手を合わせた。

椿の花が一輪だけ ぽとりと落ちた。

そうか彼岸だったのですね。

箕郷 長純寺にて