恒例になった師走の熱海詣で、昨夜は熱海の芸者衆の

心意気を見せてもらった。

端唄に合わせて踊る姿に久し振りに和事の楽しさを

満喫するのでした。

それにしても、一滴の酒も呑まずに

お座敷に居座るというのは

どうしてどうして意地としたたかさを

兼ね備えていないと

居心地は辛いものがあるもんでしてね、

酒というのは、人と人を滑らかにする効用が

ある事くらいはわかっておりますが、、

素面(しらふ)というのは、こころのやり場が

なくなってしまうのでしてね、

「こちらは何をお呑みなの」

なんて甘えた言葉に貴方なら何て返しますか・・・

仕方がないから

「あまり見事な踊りに 息を呑んだよ」

なんて戯れ言葉で返すのでありますよ。

かなりの歳の姐さんの弾く三味線は年季の入った本筋で、

小唄の師匠でもあるという、

なんだか母親を思い出してしばらく思い出に咽るのでありますよ、

今の季節に合わせた粋な唄を教えてもらい、熱海の夜は

和やかに深けていくのでありました。

『散るは浮き』

散るは浮き

散らぬは沈む

紅葉の影は高尾か

山川の

水の流れに月の影

翌朝は打って変わって透き通った冬空に

遅れた紅葉を眺めに向かう。

毎度のことですが、季節はずれの梅園には

物好きは何処にもおりませんでね、

お陰で 昨夜の端唄を呟きながら本物の

「紅葉の橋」を渡る。

熱海というのは、心の箍(たが)を外す街、

まだまだ日本のこよなき粋が漂う街

一瞬の光が紅に染まった

橋の袂で一瞬のよろめき、

「まだ昨夜の酔いが残っていたか」

と 呑兵衛のセリフを呟いてみる

『人と契るなら』

人と契るなら 

薄く契りて末まで遂げよ

もみぢ葉を見よ 薄きが散るか 

濃きが先ず散るものに候

そじゃないか

なんてひと唸り、あまりのばかばかしさに

濃い葉は勿論、薄き葉まであっちへはらはら

こっちへはらはら、

ええ、しょんがいね