奈良時代に編さんされた『常陸国風土紀』に詠まれた行方の「麻生の里」に

創建された大麻神社は

武甕槌命、経津主命、手力男命、大宮姫命、倉稲魂命、市杵島姫命、水速女命

の七柱を祀り麻生地区の心の拠り所として江戸の昔から今に至るまで

伝統に則った祭礼が続けられ特に秋の例大祭は土日月の三日間、町をあげての

祭りが行われるのです。

氏子町内は玄通、蒲縄、下淵、田町、宿(本城)の五地区で毎年年番制による

祭祀運営を執り行っているのです。

行方はアタシの母方の婆ちゃんのふるさとなんです、

「麻生のお祭りはそりゃ賑やかなもんだった」

と婆ちゃんから昔話に聞いてはおりましたが、なかなか訪ねる機会がなく

やっと二年前に下淵区の還御祭に立ち会うことができましてね、

その和気藹々とした祭りにえらく感動してしまいまいした、

その時の役員さんからお聞きしたのは、

初日には、玄通、蒲縄、下淵、田町、宿(本城)の五地区からそれぞれ

山車が出て山車曳きが行われ、夕暮れを待って若連が総踊りを行う

その手踊りを是非見て欲しいと教えられたのです、

なにしろ秋は各地でお祭りが盛大に行われる季節、

あっちの祭り、こっちの祭りと歳月は人を待ってくれません、

人生残り時間が少なくなってくると、迷っている暇は無くなるのですよ、

今年こそは行方に行こうと九州から戻ると、真っ先に

麻生の里に駆けつけたというわけです。

心配していた天気も夕方には細い三日月が顔を出し、

どうやら総踊りは大丈夫そうです。

会場の公民館広場に次々と山車がやってきます、

お囃子はあの佐原囃子ですよ、各町内から会場にやってくる山車からは

姿を見せる前に佐原囃子が風に乗って聞こえてくるのです、

思わずその方向へ出迎えに行ってしまいます。

早くから到着していたのは昨年の年番田町区の山車(経津主神)、

そして玄通区の桃太郎、そして今年の年番本城区の武甕槌命が町内の

人々に曳かれてやってきます。

少し遅れて蒲縄(かばなわ)区の菅原道真公、太宰府から戻ってきたばかり

ですのでしみじみと道真公を眺めていると、其処には「菅丞相」とある、

歌舞伎菅原伝授手習鑑の中で呼ばれる名でありますよ、なにか歌舞伎を連想する

物語があるのでしょうか・・・

最後は下淵(したぶち)区の景行天皇、山車の人形は数々見てまいりましたが

景行天皇は珍しいですね、ヤマトタケルノミコの父君ですが、そういえば

この地域にはヤマトタケルノミコの伝説は多く伝わっておりますが景行天皇も

なにか伝説があるのでしょうかとても気になる山車ですね。

今年は行方市制10周年の記念の年らしく、市長さんの挨拶も晴々しいものでしたね、

若連頭による鏡割り、そして一本締めでいよいよ祭りが盛り上がり始めました。

かわきりは年番の本城区の手踊りです、

二十年通い続けた佐原の大祭では手踊りを随分見せていただきましたが、

こうして一同に会して踊るというのもなかなかいいものですね。

夫々の町内で扇子を使ったり、花笠を使ったりと工夫があり、見ごたえ十分です。

以前、烏山の山上げまつりに魅せられて六年間通い続けたことがありました、

それは六町が交代で年番を務めるので六年通わないと全てを知ることが

できないからなのですが、行方大麻神社祭礼は五地区の年番交代なので

五年間通い続けてみたいですね。

五地区の手踊りを最後まで見せていただき、再び山車が各町内へ戻るのですが、

あの「のの字廻し」が煌びやかに演じられています。

佐原囃子の源流は あんば囃子だと聴いたことがありますが、佐原、潮来、鹿島、

そして麻生とそれぞれ独特の味付けがあって興味がつきませんですよ。

祭り囃子が遠ざかっていく後ろ姿を見送り、今夜はこのあたりで帰ることに

いたしましょう、

月曜日は還御祭ですので、もう一度訪ねてみることにいたします。

(平成27年10月)